川への想い
    2006 Tour de France 観戦  Etape 11 Tarbes 〜 Val-D'aran (Pla-de-Beret)  Col de Tourmalet   (2006.07.13)



Col de Tourmalet にて 
  2006年のTour de France 観戦2日目は、ピレネー山岳コース、etape11・Talbe(タルブ)〜Val-D'aran(バル=ダラン)の超級山岳ポイント・Col du Tourmalet(ツールマレー峠)でした。前日のPau街中でのゴール観戦とは異なり、今回は山の峠です。おそらくほどんど何もないところで選手達がやって来るまでの数時間、どうやって過ごしたらいいのだろうと、これまた初めての経験なので、不安だらけでの出発となりました。
 前日同様、Col du Tourmalet まで自走可とのことでしたので、明るくなり始めたばかりの宿泊地・Lourdes(ルルド)を出発します。Lourdes から Col du Tourmalet まで約40q。まずは廃線跡を利用した自転車道を走ります。交通規制が早くから始まるので、ツール観戦と思われる多数の自転車乗りが同じ方向に向かって走っていました。前方遠くには尖鋭な峰が見えてきて、あの辺りがそうかなあなんて思いながら進んでいきましたが、そんな峰もいつの間にか後方に。走り始めは平坦地で、トウモロコシ畑の向こうにはフランスの田舎らしい村が時々姿を現します。次第に、道はPau川に沿って緩やかな登りとなります。途中、やはり沢山の自転車乗りが同じ方向に向かって走っています。バスやクルマも多いのですが、見晴らしの効く直線で対向車がいないところでなければ、遅い自転車を抜かずに後ろをずっとついていくのには驚かされます。

 Pau川に沿った少し狭い谷(Gavarnie渓谷)を進むと、少し開けたところに出てきました。Luz-Saint-Sauveur(リュズ=サン=ソヴァール)という街。スペイン国境までは20q足らず。ここまでD921を南に向いて走ってきましたが、ここからはD918を東へと進みます。街中の直角に曲がる前後は10%弱の勾配ですが、帰国後、本番のツールで走っていく選手達が平地のようなスピードで走っていくのを見て驚いたものです(この日の録画)。街郊外にはキャンプ場と思われる芝生のところも多く見られました。

 Luz-Saint-Sauveur から東へ進み始めると、次第にピレネーの雄大な景色が広がってきます。進行方向はもちろん、横を見ても、一緒に走っていたリョウさん・Y本さんと一緒に歓声を上げるばかり。ふと振り返ると、また歓声を上げるような雄大な山が背後に広がっています(写真:下左から2枚目)。そして上述のように、クルマは対向車がある限り直線部分でも決して自転車を抜かないので、振り返ると後ろにはクルマが長蛇の列(写真:下左端)。もちろんクラクションを鳴らされることはありません。これが文化の違いでしょうか。峠まではまだまだですが、道端には既に観戦地はここと決めてノンビリしている人も多数(写真:下右2枚)。

 Bareges(バレージュ)という街(写真:下中上)には、ホテルやレストランも多く見かけました。Col du Tourmalet までの最後の街なので、観光拠点地なのかもしれません。この街の中心部も10%弱の坂でした。ここを過ぎると、周囲は氷河に削られたU字谷なのでしょうか、牧草が広がる大きな谷の底を走っていくような感じです。道端途中には、写真:下右下のような Col du Tourmalet までの距離や現在の標高、1q区間の平均勾配が記された常設の標示が1q毎にあります。もう既にクルマの交通規制が始まったようで、道には歩く人と自転車乗りだけ。みんなマイペースです。自転車はロードバイクが多いですが、サイドバックを装着したキャンプ仕様の方も見かけました。

 クルマの最終関門地点?でもあるらしい広い駐車場を過ぎると、谷に沿って東進してきた道は、山肌を右に左に大きくカーブしながら、さらに峠に向けて登っていきます。好天が景色をさらに引き立ててくれます。日本で言えば、乗鞍・畳平付近の光景をさらに大きくしたものが、ずっと続く感じです。もう走っているだけで、大満足。あちこちで停まっては、周りを眺めるの繰り返しです。アヤメかなと思う青紫花の群落も見ました(写真:下中下)。振り返ると、駐車場はどんどん下方に遠ざかっていきます。

 さあ、Col du Tourmalet に近づいてきました。山はさらに急峻さを増していきます。振り返ると、途中振り返って感激していた Luz-Saint-Sauveur の街より西に位置する高峰も、雲の彼方に見ることができます(写真:下右上)。いや、どっちを向いても絶景です。Col du Tourmalet の名前はとても有名で以前から知っていましたが、そこに至る道がこんなに魅力があるとは全く想像していませんでした。Etape du Tour 本番も素晴らしかったのですが、この Col du Tourmalet への行程が、この後の私に決定的な印象を残したといっても過言ではありません。写真が小さいのでピンとこないかもしれませんが、山々が圧倒的な存在感を持って迫ってきます。

 見下ろすと、コーナーや道端の広くなったところには、転々と観戦待ちのキャンピングカーやクルマが停まっています。交通規制は朝早くから始まっているので、前日以前から滞在している人も多いようです。そんなクルマの横で、デッキチェアでゆっくりとコーヒーを飲んでいる人や、新聞や雑誌を読んだり、私たちに声援を送ってくれる人など、みんなそれぞれに時間を楽しんでいます。そんな光景も楽しみながら、いよいよラスト1qの表示(小さくてわかりにくいですが写真:右から2番目の中央部に)。

 長い坂も、周囲の光景の素晴らしさに感動し続けているうちに、Col du Tourmalet・峠に到着。峠手前も10%くらいの勾配でした。到着した峠には、小さなレストランと土産物店が道を挟んで立っています。まだ選手達がやってくるまでに4時間程もあるのに、もう沢山の人で賑わっていました。写真:下左の赤いゲートが山岳ポイント地点。そのすぐ横に Col du Tourmalet の表示と有名な自転車に乗ったラピーズ像があります。Col du Tourmalet が初めて Tour de France のコースに取り入れられたのが1910年。その年の総合優勝者で Col du Tourmalet も最初に通過した選手がラピーズ選手だそうです。

 珍しく自分の写真を撮ってもらった後、自転車を置いて、周辺を歩いてウロウロしてみます。まずは、峠から少し左手(北側)へ登ってみました。峠付近は雑踏もあって周囲の光景があまり見えませんでしたが、少し登ってみると一変。走ってきた西の谷が一望です。もちろん峠付近もからスペイン方面の山々も。コースがずっと見えるので、選手が間際で見える位置ではありませんが、この付近に陣取ってゆっくりしている人も多数。ウロウロしていたら、いつの間にか時間は過ぎていきました。

 賑やかなキャラバン隊達が通り過ぎて2時間近く。西のほう遠くから、バラバラバラとヘリコプターの音が聞こえてきました。いよいよ選手達の到来かと思いましたが、実際にやってきたのは、それから30分以上もたってから。上から見ると、どうも4人の選手が逃げているようです(写真:下左2枚)。最後の大きな左カーブを曲がって、峠に近づいてきました(写真:下右から2枚目)。峠手前で、二人の選手がスパートです(写真:下右端)。いやそのスピードに吃驚!先程走ってきたばかりで、10%近い勾配であったことは体感済み。そこを平地であるかのようなスプリントで走り去っていきました。まさに、開いた口が塞がらない、状態でした。

 その後、次々と選手がやってきます。私がやっとやっと登った山岳ポイント手前の坂を、みんな軽々と登っていきます。写真が小さくてわかりにくいですが、下りに備えてジャージのジッパーを上げたり、ジャージの下に新聞紙を入れたり、10%の坂を両手離しで、悠々です(写真:下左下)。
 そうこうするうちに、マイヨ・ジョーヌを含むメイン集団がやってきました(写真:下左上)。やはり周囲の緊張感が少し異なるように感じられました。

 メイン集団から遅れた選手も次々とやってきます。遅れているといっても、とんでもない速さ。しかもみんな格好いい。最後はグルペット(写真:下右2枚)。クライマーや総合系ではなくスプリンター系の選手が多いのでしょうが、それでも日本のヒルクライマーのトップクラスより遥かに速いようです。

 最後尾の選手と関係車両が峠を越えていくと、観客達は余韻に浸ることもなく一斉に帰路につき始めます。ここでまた驚いたのが、峠周辺にあったゲートや観客制限用柵撤去の速さ。選手のスピードにも驚きましたが、この手際良さ・スピードも驚異的。あっという間に片付けられていきます。この後、すぐに明日のコースに向けて移動・準備が始まるのでしょう。
 私達は、バスの待つ東側・La Mongie(ラ モンジー 写真:下左・中央付近の街)へと下ります。途中は一面の牧草地。牛や羊が鈴をガランゴロンと長閑に鳴らしています。冬場はスキー場になるようで、至るところにリフトが横切っています。La Mongie は、スキーリゾート地のようです。大きなホテルがいくつもありました。

 この日がツアー観戦最終日。翌日には日本に向かう行程だったので、Tour de France を目の当たりに見た興奮も冷めぬまま、慌ただしく帰国の準備です。広い駐車場で持ってきた時の段ボール箱に自転車を梱包します。2000mを越える峠でも半袖短パンで居れたくらいの気温だったのですが、下ってくると暑いくらいで、駐車場はアスファルトが溶けているところがありました。なんだかまだ雲の上にいるかのような気分のまま、バスの中へ。
 天候に恵まれたことが一番なのでしょうが、上述のように、この Col du Tourmalet への道を走れたことが、一度話のタネに行ってみようという出来心が、是非もう一度やって来るぞという決意に変わった一番の要因であったことに間違いありません。選手達の走りは言うまでもなく、峠へ至る道、そしてその周囲の山岳風景・街の光景、ツールを観戦する人々、クルマのマナーなど、どれをとっても、これまで体験したことのない・基準が異なる世界だったのです。

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