川への想い   

    2012 act 2  Pau 〜 Bagneres-de-Luchon    (2012.07.14)


Col du Tourmalet へ
 150qという距離にも関わらず積算標高が4800mもあって、なんとかゴールに辿り着いたAct 1から1週間。2012年二つ目の Etape du Tour・Act 2 は、Pau(ポー)をスタートして、Bagneres-de-Luchon(バネール・ド・リュション)までの201q。途中には、超級二つに1級二つの峠が待ち構えています。Act 2 よりは楽だろうと思っていたAct 1が予想外に厳しかったので、それより50qも長く、標高差もあって難コースと思われた Act 2 は、戦々恐々の思いで臨むことになりました。
  左から Col d'Aubisque(オービスク峠)、Col du Tourmalet(ツールマレー峠)、
      Col d'Aspin(アスパン峠)、Col de Peyresourde(ペルスールド峠)

 前日の宿泊地は Pau から40qほど離れた Lourdes(ルルド)だったので、Act 1 同様、朝は少しゆっくりできました。それでも朝まだ暗いうちに出発。漸く空が薄らみ始めた頃に Pau のスタート地点近くに到着し、早速準備です。しかし、また天候が怪しい雰囲気です。悩んだ挙句、荷物になりますが、雨用の合羽も手袋も持ってスタート地点に向かいました。普段は駐車場として使用されているらしい街中心部の広場は、ほぼ5000人の自転車乗りで埋め尽くされています。私のゼッケンは4585、かなり後方からのスタートです。広い場所がなければ、いくつもの通りを長々と並ぶことになるので、スタートゲートは見えないことも多いのですが、Pau では、広場のおかげで最終近いスタートでもスタートゲート(写真:下右)を間近に見ることができました。予定通り、午前7時に最初のグループがスタート。順次1000人単位で出発です。ちなみに、このスタート広場の横の通りが、 Tour de France 初観戦だった2006年のゴール地点でした。

 広場は丘の上にあるので、まずはポー川まで下り。集団で結構スピードも出ているので、まずは安全走行第一。Pau から30qほど走った Laruns(ラランス)を過ぎると、いよいよ最初の峠・Col d'Aubisque への登りとなります。まだまだみんな余裕です。しかし、長丁場なので、ペースはゆっくり目。下の写真のように、ガードレールは背の低い石積みです。日本の味気ない金属製に比較すると、風景に溶け込んでいます。Laruns の街を右に左に見ながら、緩やかに登っていきます。
 

 Laruns からはD918を進みます。途中 Eaux-Bonnnes(オー・ボンヌ)という小さな町で一枚。そこからしばらくは、なんとか曇り空が続いていたのですが、標高が高くなるの連れて、とうとう雲の中に入ったのか、周囲は真っ白になってしまいました。霧雨というか、しっとりとしてきて、合羽着用。防水長手袋も着用。その後は視界がかろうじて保たれる程度で、周囲の景色は全く見えません。当然、写真は無し。ただ淡々と登るだけでした。

 今回一番の楽しみにしていた Col d'Aubisque は下の写真の通り。峠の遥か手前から、こんな状況が続きました。とりあえず峠の表示を確認、証拠写真を撮っただけで下りへと向かいました。ということで、Col d'Aubisque 前後の記憶は、ほとんど残っていません。ただ霧の中を走っていた記憶だけ。視界も悪いので、下りも慎重にゆっくりと。そのまま下り切るのかと思っていたら、途中から少しまた登りがありました。Col de Soulor(スロール峠)です。小雨にも関わらず、峠付近では、応援の人が結構いました。そんな光景を写真に撮ろうとしたら、カメラが作動しなくなっていました。ありゃあ・・・。

 Col de Soulor からの下りも、周囲の光景が楽しめるような天候ではなく、ほとんど記憶に残っていません。下り切って、Argeles-Gazost(アルジェレス・ガゾスト)という街が補給地点でした。ここからD918からD921に道が変わり、二つ目の超級峠・Col du Tourmalet への登りとなります。初参加だったFさんが、あまりの寒さに震えていたのが記憶に残っています。私も 2011年 Act 2 の経験がなければ同じような状況で、この時点で DNF だったでしょう。若いFさんは、2時間あまり休んだ後、引き留めるスタッフを振り切って再びコースに戻り、なんと完走しました。さすが、登録レーサーと同程度に走れる地力がある人は凄いです。Col de Soulor で動かなくなり、もうダメかと思ったカメラが再び稼働し始めたので何枚か撮影。下って来ると、雨は止んで、路面も乾いてきました。

 D921 を走っていると、2006年に Tour de France 観戦に Col du Tourmalet に向かっていた時の記憶が蘇ってきました。薄日も差して少し暖かくなり、快適に走っていたのですが、Luz-Saint-Sauveur(リュス・サン・ソバール)という街の手前で自転車を降りようとしたところ、なんと左足のクリートがペダルに残ったまま外れてしまいました。少し前からペダルを外す時に、違和感はあったのですが・・・。携帯工具は持っていましたが、ペダルに噛み込んだクリートは簡単には外せません。まだ3つの峠が残っているので先が思いやられましたが、仕方ないので、とにかくそのまま進みました。写真:下右、Luz-Saint-Sauveur の街中です。平坦なように見えますが、8%くらいの登り。

 Luz-Saint-Sauveur からは、直角に右手へ曲がって、D918 で東進。ここからの道筋は、初めてのピレネー地方経験だった2006年に Tour de France 観戦時の印象・記憶がはっきりと残っていました。登り始め、所々にある集落の中では、S字カーブを描いて道は進んでいきます。道脇のガードは、やはり石積みです。

 その区間が終わると、今度は真っ直ぐと東進していきます。途中にある唯一の街が Bareges(バレージュ、写真:下2枚)。観光拠点地でもあるようで、ホテルやレストランが道の両側に並んでいます。ここも道は平坦に見えますが、7〜8%くらいあると思われます。

 Bareges の街を過ぎると、Col du Tourmalet までほとんど建物がありません。道の左手は、小さな川を挟んで斜面に牧草地が広がっています。道路の右側には1q毎に峠までの距離と1q区間の平均勾配を記した常設の表示(写真:下左下)。写真:下中下、赤い看板は、Etape du Tour 専用。ここでは、補給地点まで1qの表示でした。
 のんびりと牧草を啄む牛達の向こうを、Z字状の道を参加者たちが登っていっています。小さな写真では、点にしか見えませんが(写真:下右)。

 その手前の大きな180°左カーブになるところに、補給地点がありました。広い駐車場を利用しています(写真:右から2枚目)。ここで、ペダルからクリートを外せるような工具がないかウロウロしてみますが、食べ物だけのようです。フランス語は全く喋れないので、尋ねることもできません。まあ、なんとかなるかと諦めて再び登り始めたところ、後方から、「日本人から来たのか」と声をかけられました。「フランス語はダメ」というと、片言の英語で喋ってくれました。何年か前に日本に行ったことがあるとのこと。日本の何処からと聞くので、徳島と答えましたが、さすがに場所はわからなかったようです。あなたは、と聞くと峠の向こう側に住んでいるとのこと。「今日は天候が悪くて残念だが、2006年に来た時は快晴で素晴らしい眺めだった、いいところですね」とお世辞抜きに言うと、「晴れると暑すぎて大変だよ」とのこと。いつでもやって来れる地元の方にとっては、涼しい曇天のほうがいいというのも、わからないことではありません。

 片言の英語で喋りながら併走して登っていたら、「俺はもう息が切れてきた、先に行ってくれ」とのこと(写真:上右端)。前上方を見ると、また霧(雲?)が出てきました。とりあえず、周囲の光景が見えるうちにと何枚か写真を撮ります。

 写真:下左は、峠まで後3q地点でしょうか? この辺りから、再び霧・雲の中に入っていき、周囲の光景が見えなくなってきました。2006年の観戦時に、この付近から峠までの展望の素晴らしさを見て知っているだけに、とても残念でしたが、逆に走ることだけに集中することができたのかもしれません。相変わらず左足はペダルの上で不安定なままですが、なんとか登れます。石積みのガードも無くなりました。

 タンデムの方もいました。ゼッケンが付いているので、参加者のようです。下りは怖くないのかなあ。きっと慣れているのでしょう。写真:下中は、峠まで後1q。常設(上)と赤に白抜きの Etape du Tour 専用の表示が並んでいます。
 写真:下左、峠に到着。一応、証拠写真のみ撮影。晴れていたら、この付近からの眺めが最高なのですがねえ・・・。こんな天気でなければ、しばらく写真撮影タイムだったこと間違いなし。しかし、ほとんど何も見えないので、脱いでいた合羽を再び着て下ります。

 下りも風景が見えないのと寒いこと、そしてクリートが入っていないと登り以上に不安定でスピードも出せず、慎重になったため、写真は全くありません。
 漸く、写真を撮ったのは、La Seoube(ラ・セブ)という小さな集落。Col du Tourmalet を下って、Col d’Aspin の登りまでの間に撮った一枚であることは間違いなかったのですが、詳しい場所などは不明でした。が、この付近かなと Google map で調べたところ、道左右にある教会と建物から、La Seoube という集落であることが確認できました。後の3枚は、Col d’Aspin の登り。この登りは標高差が600mくらいで、今回の4つの峠の中では一番楽と思われた峠です。

 珍しく予想通り、あまり急勾配はなく、クリートが入らないにも関わらず、比較的マイペースで登ることができました。しかし、峠まで後1q(写真:下左端)を切ると、また霧の中。峠付近(写真:下中)は、路面も濡れていました。標高が低かったためか霧も薄めで、これから下っていく方面も薄っすらと見ることができました。ここも写真を撮りたい光景が続きます。しかし、天候がもうひとつであった上に、みんなのスピードが速いことや道の状況などもあり、立ち止まって写真を撮る余裕はありませんでした。

 写真:下左は、そんな下りの中で貴重な一枚。少し平坦になった部分で。右側通行ですが、石積みのガードレールが低いのがわかると思います。右手は上の写真からもわかるように、結構な崖です。写真:下右は、下り切った Arreau(アロー)の街中。左手正面の建物は、クレープ屋さんらしいです。何処でも街中に入ってくると、こんな風に沢山の人達が応援の拍手を送ってくれます。

 Arreau の街中を抜けると、D618で、最後の峠・Col de Peyresourde へ向かいます。街中だけでなく、沿道でも庭先で一家繰り出して応援してくれているところも多数。小さくでわかりにくいですが、写真:下左から2枚目、小さなお子さんが参加者とハイタッチ。最後の補給地点は、Borderes-Louron(ボルデール・ルロン)。D618から川を渡って平行した道沿いにある教会脇の広場でした。やはり下って来ると、雨は全く降っておらず、路面も乾いています。

 さあ、最後の登りです。晴天でないのは残念ですが、上述の地元の方が言われていたように、曇天のほうが暑くなく、体力温存には良かったのかもしれません。Act 1 より50qも距離が長く、クリートが外れてしまったこともあったのに、恐れていたほどのダメージは無いように思われました。

 Col de Peyresourde もこれまで3つの峠と同様、峠まで2qを切る頃から、霧の中となり、路面が濡れてきました。ただ、標高が少し低いためか Col d'Aubisque や Col du Tourmalet ほどの寒さはありません。ここを登り切れば、後はゴールまで下りだけだと思うと、気分的にも随分楽になってきました。登っていくと、また峠の2qくらい手前からは、霧の中となり、路面も濡れてきました。

 とうとう最後の峠・Col de Peyresourde に到着しました(写真:下左)。ここからゴールまでは15qほど、下りのみ。制限時間にも余裕があって、後は慎重に下るだけです。写真:下右の4枚は、Saint-Aventin(サン・タバンタン)という街にて。この街の名前も google map で確認しました。下って来ると、やはり路面は乾いています。ゴールまで後数q。

 下り切ったところのロータリーに入って右手を鋭角に曲がると、遂にゴールの Bagneres-de-Luchon の街です。Avenue Marechal Foch(マルシャル・フォッシュ通り、写真:下左上)からAvenue Carnot(カルノー通り、写真:下左下)を通って、最後はAllee d'Etigny(エティニー通り)の突き当りがゴールでした。街の中を走る約1qの平坦区間。街の中心部に近いようで多くの人が道を歩いていたのですが、何か他に目的があるのか、それともなんとかゴールしてくる遅い参加者には興味がないのか、ほとんどの方が知らぬ顔で歩いていました。それでも Avenue Carnot から Allee d'Etigny に入ってくると、道の両側のカフェテラスで寛ぐ人々の中には拍手を送ってくれる人も次第と増えてきました。そんな通りを走っていると、4つの峠を越えて200q(積算標高は5000mを越えていたそうです)走ってきた達成感がこみあげてきました。


     

  公式記録  所用時間  9時間55分24秒  平均速度 20.26km/hr
          順位/完走者数/出走者数   1729/3629/4696
          年齢別(50−59)          325/816

 帰国後、同じコースを走る Tour de France 本番のステージをテレビで見ました。レースを報道しながら、合間に周囲の風景や古城・街並みなどをヘリコプターからの空撮も加えて織り交ぜる Tour de France の放映は、おそらく自転車レースに詳しくない人でもフランスの田舎旅を楽しめる素晴らしい映像だといつも思っているのですが、その時のCol d'Aubisque の光景は圧巻でした。もちろん、快晴でヘリコプターからの空撮という視点も加わっているということもあるのですが、あの霧の中には、こんなに素晴らしい光景が隠れていたのか、と思うと、とても残念だった気持ち以上に、是非もう一度天候の良い時に再訪しなくては、と強く思ったのでした。

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