旧猪ノ鼻峠と周辺の道
 昨年(2020年)末に新猪ノ鼻トンネルが開通しました。それまで国道32号線・旧猪ノ鼻トンネルは、川之江JCTを中心とする高速道路が出来た後も交通量が多く、なかなか自転車で走る気になれませんでした。標高413mにある旧猪ノ鼻トンネルまでは、香川側も徳島側もカーブのある坂道が続きます。その下を直線で結んだ新猪ノ鼻トンネル(自動車専用)ができたことで、交通量は格段に減って走りやすくなっているだろう、旧道は整備されずに時間が経つと路面も荒れてくるだろうと、この機会に久々の旧猪ノ鼻トンネルと、さらにその上にある旧猪ノ鼻峠を含めた周辺の道を走ってくることにしました。 (2021年 2月25日 記)

旧猪ノ鼻峠への道 香川側 (2021.02.07)
 初めて旧猪ノ鼻トンネルを走ったのは、1973年の夏。香川側から抜けて、祖谷のかづら橋までの往復。もう50年近く前の話ですが、暑さとハンガーノックでフラフラになりながら帰路の猪ノ鼻トンネルまでの坂道を登ってことが、今でもはっきりと脳裏に残っています。その後、香川・西讃に住んでいた時には何度か走っている記憶ですが、徳島に住むようになってから走った記憶はほとんどありません。走る時間が増えてきた2002年以降は、交通量が多いこともあって全く走っていませんでした。今回は、徳島道・吉野川オアシス近くの美濃田からのスタートで、ちょっとわかりづらいですが、旧猪ノ鼻峠付近は下の地形図のようなコースを走ってきました。旧猪ノ鼻峠から中蓮寺峰までは2003年3月に走っていますが、こちらも記憶はほとんど残っていませんでした。
コース  美濃田−県道5号線(旧国道32号線)−林道増川線−旧猪ノ鼻峠−中蓮寺峰(往復)−県道5号線(旧猪ノ鼻トンネル)−林道増川線−美濃田
走行距離   45q   積算標高 1200m
最高地点   若狭峰直下  標高770m
走行日   2021年 2月 7日  天候:晴れ/曇り  シクロクロス
 午前8時15分に吉野川オアシス近くをスタート。高速道路沿いの道から県道12号線へと進みます。こんな時にでもと、JR土讃線・箸蔵駅(写真:下)に立ち寄ってみました。旧国道32号線からすぐですが、意外と細い入り組んだ道で駅舎に到着。列車が来る気配がないので、旧国道32号線に戻り、そのまま進みます。ちょうど直前に自転車仲間のま〜し〜さん一部重なったルートを走っておられ、道路標示の国道マークだった32が県道マークの5に変わっていたと記載されていましたが、その通りでした。驚いたのは、交通量の少なさ以上に路面状態の良さです。舗装し直されて、まだそれほど時間が経っていないように思われました。それが一部でなく、走っていく結構先まで続いています。新道ができたため、旧道は手入れされないのかと思っていましたが、ひょっとするとこれが最後の大改修なのかもしれません。
左  箸蔵駅全容
上  箸蔵駅舎
右上 坪尻駅
右  上方に坪尻駅ホーム端
 クルマは予想通り非常に少なく、特に大型車が皆無なのが有難いです。峠から下って来る自転車乗りとも擦れ違いました。上述のように、あまり多くは走っていないこの道、勾配もそこそこあった印象でしたが、ゆっくり走ったこともあってか、思いの外緩やかで走り良く感じました。昨年確認していた坪尻駅(写真:上)をチラッと見て、県道6号線・野呂内方面からの合流地点(写真:下左)から300mほど先、写真:下中、込野トンネル手前の橋袂から右折します。上述のま〜し〜さんの記事を読むまで、ここから先は以前にひどく荒れた道を走る動画を見た記憶があったので、未舗装で大変な道だとばかり思っていました。横道に入ってすぐ左手に、林道増川線という標示がありました(写真:下右)。旧猪ノ鼻トンネルができるまで香川・徳島を結ぶメインの旧道とばかり思っていたので、その名称には少しばかり違和感がありました。
    
 進んでみると、1車線ですが拍子抜けするほど上々のアスファルト舗装が続きます。これまたま〜し〜さんの言われるように展望さえないものの、勾配は極緩やかで走り良い道です。周囲には落葉した雑木林が続きます。おそらく新緑の頃は、かなり楽しめるのではないかと思われます。当然交通量は皆無。まだ走り始めたばかりなのに、これは再訪の価値ありだなと思います。
 そんな道を快適に進んだところ。直角に近い右カーブがあり、未舗装で暗い杉林の中に入っていく作業道のような直進する道が申し訳程度に顔をのぞかせていました。地形図を確認して、念のため、さらに右方向を道なりに少しだけ進んでみて、やはり直進がこの日最初の予定地・旧猪ノ鼻峠だと確信して引き返し進んでみます。どれほどもない距離で薄暗い杉林を抜けると、行く手に切通が見えてきました。旧猪ノ鼻峠まではまだ少し距離があるだろうと思っていたのですが、この切通が峠でした。峠の直前に道を阻むような落石。この日のコースで、クルマで通行困難そうなところは、ここだけでした。旧猪ノ鼻峠には、中蓮寺峰付近を走った時も立ち寄った記憶があります。当時上の地形図で中蓮寺峰から二軒茶屋に向かう途中で立ち寄り、切通には峠の標示があったような気がするのですが、記憶違いかもしれません。
暗い杉林を抜けて 旧猪ノ鼻峠手前、落石 四国の道と旧猪ノ鼻峠の標示 中蓮寺峰への分岐部
 切通のすぐ先はT字路となっていて、四国の道と猪ノ鼻峠の標示がありました。中蓮寺峰を走った時の記憶は、狭い切通の旧猪ノ鼻峠の光景以外何も残っていません。T字の突き当りからは、中蓮寺峰方面に向かって東進します。未舗装路の下り道が続き、全面落ち葉の路面はそこそこ荒れていますが、CXなら問題ない程度です。ロードバイクでも28Cなら多少のリスクはあるものの乗車可能でしょう(写真:下)。そんな未舗装路を500mほど下ると、分岐部に出ました。写真:上右端、右へ下ると旧国道32号線香川側に出ます。左手が中蓮寺峰方面で、ここに若狭峰まで2.6q、中蓮寺峰まで4.1qだったかの標示(自転車を立てかけてあるところ)がありました。
 ここからはコンクリート舗装となりましたが、勾配がグンと上がります。10%くらいかなと思いましたが、若狭峰まで2.6q程で270mほど登ったので、感覚は正しかったようです。登り始めてすぐに下って来るジムニーと擦れ違い。旧国道32号線から林道増川線に入って中蓮寺峰往復後旧国道32号線香川側に出るまで、出会ったクルマはこの1台だけでした。この道沿いも、時に杉・檜の林のところもありますが、総じて落葉した雑木林のところが多いです。路面には落ち葉が溢れていましたが、先程のようにクルマが多少通るようで轍は保たれていました。この区間も新緑時は楽しそうです。右手には小さな沢が流れています。財田川の支流のようです。下流の水量が多くはない財田川支流の上流で、こんな沢があることは、ちょっと驚きでした。それにしても、以前に下ったはずの道ですが、何処も全く記憶に残っていません。
 上右の写真のすぐ先が、若狭峰です。若狭峰からは再び未舗装路となりましたが、勾配は緩やかというか下りに。やはりクルマが多少入るのか、路面は比較的落ち着いていました。若狭峰から結構下るので、また大分登り返しがあるかと恐れながら下っていました。が、途中短いものの急でやや荒れた登りが2か所あって押しが入ったところ以外は気持ちよく走れる道が続きました。これまた事前チェック不足でしたが、中蓮寺峰のほうが若狭峰より標高がある(実際は逆)と思い込んでいたのです。道は稜線付近を走ることが多いのですが、落葉しているものの樹が繁っていて、枝の隙間にチラッと見える讃岐平野方面も、すっきりと見渡せるポイントは残念ながら皆無でした(下の写真)。
 ここも標示通りほぼ1.5qで中蓮寺峰に到着。スタートからちょうど2時間ほど。距離は20q弱。写真:下左の広場と四阿だけは記憶に残っていました。北側には三豊平野と七宝山が見えるのですが、これも落葉樹の枝が邪魔をします(写真:下中)。手摺に登って手を伸ばして、この写真が精一杯。帰宅後2003年時の写真を見ると、木々の梢は随分と下方で、右手には丸亀方面も見えています。20年近い間があるので木々の成長しているのも当然ですが、折角の展望があるのに残念。梢付近だけでも木を切ることは無理なのでしょうか。香川の西半分から瀬戸内海を一望できる眺めは、ここまで登ってきた人(歩きが多いと思われますが)の達成感をさらに満たすと思うのですが。
  
 一服後、当初の予定では中蓮寺峰付近から野呂内方面に下るつもりでした。上の地形図でも野呂内方面に下る実線の道が2つほどあるのですが、走っている稜線の道と微妙に繋がっていません。中蓮寺峰のすぐ手前には左手に西に直進する細い道があって「讃岐縦走路」の立て札がありました。これを進むと野呂内方面に下る道もあるのでしょうか。引き返して少しのところでオフロードバイク乗りと擦れ違いましたが、その方は縦走路を進んでいったのかもしれません。
 往路、途中に野呂内5qの標示がある分岐を確認していました。そこまで戻って野呂内方面に進んでみようかと思ったのですが、分かれてすぐに木々の枝が左右から遮って行先を邪魔しています。走っている道より細いものの落ち葉の多い路面も乗車できそうにも見えましたが、先がわからないので無難に来た道を引き返すことにしました。下右上の写真、左手が猪ノ鼻峠方面(往路)、右手が野呂内と標示があります。

野呂内への標示があった分岐
 往路時の分岐まで戻って、そこから左折して旧国道32号線香川側へ向かいます。コンクリート舗装ですが、道の造りは幅や勾配、そして道脇の柵などが旧道然としていて、それなりの雰囲気があります。最も展望はこれまで以上になく、杉林の部分もそこまでに比較すると若干増えて、面白みに欠ける部分も多いです。写真:下右は、そんな中で落葉樹の多かった地点です。右下には、旧国道32号線・猪ノ鼻トンネル香川側出口付近が見えていました。トップの写真は、旧国道32号線に出る前のコーナーです。勾配の緩やかさがよくわかります。道ができた当時は、道を作る技術もさることながら、クルマが非力だったので緩やかな道が必須だったのかもしれません。まもなく旧国道32号線に合流。新しい国道32号線と旧国道32号線の香川側分岐から旧猪ノ鼻トンネル、そしてトンネルから県道6号線合流部まで徳島県側、いずれも民家はないのでクルマは皆無かと思ったのですが、仕事ではないと思われる普通車と3台ほど擦れ違いました。オートバイも3台程度。まあ以前と比べると極楽です。怖かったトンネル内も、ほとんどクルマが通らないので安心して走れました。
 左 旧猪ノ鼻トンネル香川側
 他の3枚 旧猪ノ鼻峠への道
 徳島側に下って、再び先程の林道増川線へ進みます。快適な道を走って、先程は直進した右カーブへ。快適だった緩やかな道は、ここから勾配が増します。ここまで走行距離は35q弱だった記憶ですが、早くも疲れてきて、そこからはインナーXロー固定。勾配が増したことを除けば、路面状況も落葉樹が多い周囲の光景も変わりありません。
 ま〜し〜さんの情報によると、名もない峠前後付近から路面が荒れていたとのことでした。勾配が増した道はその後再び緩やかになって、なだらかに山肌を縫うようにして進み、何処か最高地点かはっきりしないくらいでした。写真:下左端の檜林があった辺りが最高地点だったように思えました。地形図では、その付近から尾根沿いを南へ続く実線の道が記載されているので気にしながら走ったのですが、確認できませんでした。下り始めると確かに路面の小石や枝葉は増えてきましたが、CXだとさほど気にするほどではありません。が、下の写真のように倒れた木が道を覆っている部分や、枝が垂れている部分も増えてきました。峠付近まで手入れが必要な植林地も無かったのですが、峠前後での路面状況の違いは、狭い谷に入ったため風が当たりにくいという程度の違いではないように思えました。
林道増川線ピーク付近 倒木が遮る 増川谷川を渡る 増川谷川沿い
 どの付近を走っているのかなあと思いながら下っていくと、谷筋をひとつ越えます。確か地形図でもそんなところがあったなと思い出します。増川谷川です。そこからは増川谷川の流れに沿って下っていきます。途中2か所ほど堰堤がありましたが、川面と路面の高低差のないところや人工物かと見紛う平らで大きな岩上を水が流れているところなどもあったりと、遡ってみるのも面白そうです。狭い谷故に陽は差し込みにくいと思われますが、新緑も含めると楽しそうな道です。ただ、一部では山側から土砂崩れというか小石が流れて散乱しているところも3ヶ所ほどありましたし、勾配も多少きついように思われます。
 大分下って、棟木という標示のある分岐では、再び林道増川線の標示がありました。林道増川線という名の由来は、こちらの地名からのようですね。旧国道32号線側の入り口でその名称に違和感を持ったのですが、当初は香川へ超える道からこの増川方面に抜けるようになったことで増川線の名称になったのかもしれません。そこから少し下ったところに数軒の民家と小学校跡らしい建物がありました。増川小学校跡。南側には運動場だったらしい広場とプールも確認できました。
棟木への分岐 増川小学校跡 分岐部毎に見られる案内図
 小学校跡もあるくらいだから県道4号線への合流部まではもうすぐだろうと思ったのですが、そこからまだ大分距離がありました。道は増川谷川からは結構高い位置を走るように進んでいきます。この道沿いも、杉林もあれば落葉樹もありという、これまで同様の道(写真:下左)。勾配はあまりありません。途中、いくつか分岐があり、その都度分岐方面の道筋が民家(氏名入り)と共に記載された案内板があります。徳島の山間地では時々見かける光景です。最後は何処で県道4号線に合流するのだろうと思っていたら、東山峠へ向かう時にいつの眺めていた赤錆びた橋の処に出ました。袂には平成12年竣工との標示。そのためでしょう、橋名は二千年橋。せめてもう少し地元にちなんだ名がいいのではと思いますが。ここからは何度か走ったことのある県道4号線などでデポ地へ。これも好きなJR土讃線・吉野川に架かる鉄橋のところで、折よく鈍行列車がやってきたので一枚。

二千年橋で県道4号線へ

JR土讃線・吉野川鉄橋
 余談ですが、旧国道32号線にまつわる昔話。調べてみると、旧猪ノ鼻トンネルの開通は1967年とのこと。さらに旧猪ノ鼻峠付近の道は、明治時代に四国新道として財田出身の大久保じん之丞によって構想整備されたそうです。旧猪ノ鼻峠への道が四国新道だとすると、作られた頃にはまだ馬車の時代だったので緩やかなのも当然でしょうか。上述のように旧猪ノ鼻トンネルを自転車で初めて抜けたのは1973年のことですが、小学生の時に2回クルマで香川・西讃から池田方面にクルマで抜けています。大阪から帰省した10歳以上年上の従兄が大歩危までドライブに連れて行ってくれた時(残っている写真から1966年)と、高知市内の温水プール(当時水泳をしていたのですが香川県には温水プールはなかった)に知人が一度連れて行ってくれた小学5年生時(1968年)。当時は有料道路だった曼陀トンネルが香川・西讃から徳島県へ抜ける主要道だったようです。往路は曼陀トンネル経由で。帰路、おそらく旧国道32号線だったのでしょう、山肌の大規模な道路工事を横目に見ながら走った記憶は、そのいずれかはっきりしなかったのですが、立派なトンネルを通って、これからは曼陀ではなくこちらがメインになるなとの話が記憶に残っているので、旧猪ノ鼻トンネルの完成時から後者のようです。徳島市で暮らすようになった1976年以降は、生家との往復には最短距離(ちょうど100qほど)の旧国道32号線・猪ノ鼻トンネルをいつも利用していたのですが、先日初めて新猪ノ鼻トンネルを利用して、その便利さ・快適さを十二分に感じることができました。もうクルマで旧猪ノ鼻トンネルを越えることはないでしょうが、自転車で越えることはあと何回あるでしょう。

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