信州 半日ツーリング

 初めて信州を訪れたのは、1974年・秋でした。バスの車窓から見た千曲川周辺の景色は、小雨に煙っていたものの、紅葉した自然林を持つ河岸や点在する民家など、日本にはこんな落ち着いた美しい風景があるのだ、これは是非自転車で走らなくては、と強く思ったものでした。
 念願叶って漸く自転車で信州を走ったのは、それから5年後の1979年・春。実は今回確認するまで、初めて訪れたのは1979年のゴールデンウィーク時に、青森から日本海沿いを南下した際、糸魚川から大糸線に沿って松本まで走ったのが最初だとばかり思っていました。本当はその1ヶ月前に松本起点で清里方面から山梨・東海と走っていたのですが。記憶違いがあった一番の理由は、糸魚川から走ってきて小谷付近で突然眼前に現れた白馬三山の雄大な姿に圧倒された印象があまりにも大きかったからです。新緑にはまだ早い季節でしたが、ちょうど水田には水が張られた状態で、まだ残雪を多く残した北アルプスの姿と、麓に点在する集落や民家、田園風景に、思わず「おおっ」と嘆声を発したものです。今でもその時の強烈な感動は心に残っています。
 それから数年、その景色が忘れられず何度か松本を中心とした信州ツーリングを楽しみました。今から考えると、もっと沢山(距離も日数も)走れたはずと思うのも後の祭り。昨今はなにより時間の制限もあり、なかなかゆっくりと訪れることができません。数年来、美ヶ原や乗鞍のヒルクライム大会に参戦していますが、いつもとんぼ返り。折角遠方まで、しかもいい季節に訪れるのだからと、レース以外にもと欲張って前後に半日ツーリングを企ててみたのが、下のツーリング記録です。

2008・初夏 光城山〜長峰山
 この年もツール・ド・美ヶ原の前日、プチサイクリングと称して、光城山&長峰山を走ってきました。
 天候がいまひとつで前年の小熊黒沢林道に比較するとやや見劣しましたが、長峰山からの安曇野一望は負けず劣らずの鳥瞰風景でした。道もクルマがほとんど通らず、サイクリングには絶好の道でした。

長峰山から安曇野を鳥瞰
コース 浅間温泉−国道143号線−大沢口−光城山−長峰山−明科−犀川のほとり−浅間温泉
走行距離  40キロ弱     積算標高 700m
最高地点  光城山  長峰山 (標高930m)  天候:晴れ  GIANT TCR
 2007年は小熊黒沢林道を走った美ヶ原・前日。2008年も何処か適当なところがあればちょいと走ろうと思っていたところ、「自転車人」011号巻頭に、あずみのの大石さんが案内する長峰山を発見。写真を見て大変気に入り、距離的にも浅間温泉から自走できそうと判断。この年の美ヶ原・前日サイクリングは、迷わずここと決定しました。コースは、浅間温泉から国道143号線を北上し、大口沢で明科方面へ左折。国道19号に出る手前で、真新しい「光城山、長峰山」の案内板があるところを右折(北へ)します。自転車人の案内は明科方面から登って光城山までのコースとなっており、他の道路地図でも光城山から南方面は道が途切れていたのですが、事前に国土地理院のうぉっ地図で道がちゃんと繋がっていることを一応確認していました。

光城山から安曇野を鳥瞰

光城山から安曇野を鳥瞰
 南側から登る道は、標識の真新しさからまず大丈夫と思いましたが、道は1車線ながらも全線舗装で路面状態も良好でした。数キロの登りで標高差約400m、ゆっくり登ればなんということは無い程度の登りでした。クルマはほとんど走っておらず、小熊黒沢林道にも似た森林浴を満喫できる快適な緑のトンネルを進みました。南側から登ると、まず光城山です。ここは案内板にも記されていたようにサクラの樹が多く、花の季節はまた別の華やかさが見られることだろうと思われました。山頂には神社があり、木立の間から安曇野の一部分が見えます(写真:上)。

長峰山ハンググライダー基地にて

長峰山から安曇野を一望、本来なら北アルプスが・・・
 光城山から長峰山までは、ほぼ稜線を進むことになりますが、周囲の木々が大きいので長峰山山頂まではほとんど展望がありません。そんな樹林に、アカマツが多く目立ったのが印象的でした。極僅か下って同じくらい登ると長峰山山頂。こちらからの展望は光城山よりずっと開けていて、自転車人の巻頭写真の場所(長峰山ハンググライダー基地)であることがすぐ確認できました。山頂からは手前に犀川、そして安曇野が一望。あいにく曇天のため北アルプスの稜線は拝むことが出来ませんでしたが、それでも十分満足できる眺望でした。その後そのまま引き返すことも考えましたが、せっかくだからと明科方面に下ってみました。こちらの道も登ってきた道同様、緑のトンネルで対向車もほとんどなく快適でした。

安曇野の農道を走る

刈り取り前の麦畑
 明科に降りた後、国道19号線を走ることは避けたかったので、犀川沿いを適当に松本方面に向うことにし、犀川橋の袂から川沿い東側の土手へと進みました。この道もほとんどクルマが通らず、犀川の流れを楽しみながらの快適コース。犀川の西側には大王わさび園をはじめとするわさび畑が点在することはずっと以前から訪れて知っており、今回もそちらを回ることも考えていましたが、走った川の東側にも小さいながらわさび畑がありました。そして、その脇を流れる水の透明度。まさに透明。どう撮ればその美しさが伝えられるだろうと思いながら南へ(川の流れでは上流方向へ)進みました。まだまだその流れは続いているだろうと思っていたのに、いつの間にか土手からは離れてしまって流れがわからなくなってしまいました。写真を撮らなかったことを悔やみます(もし撮っていても十分その魅力が伝えられるかどうかは甚だ疑問ですが)。
 しばらく走ると土手沿いの道がダートとなったので、左手に降りて進みました。そこはちょうど光城山や長峰山から見た犀川の手前付近。水田が多いのですが、所々には麦畑が色づいていました。国道19号線からほんの200mばかり離れるだけで別世界。一時期、年に何回か松本を基点として、安曇野周辺をサイクリングしていたことを思い出しました。もう30年も前の話。できれば来年にでも、もう少し早い5月後半くらいに再訪してみたいものだと強く思いました。私にとって、信州は北海道同様、未だに憧れの地です。この年ツール・ド・美ヶ原は中止に終わりましたが、前日この道を走れたことで遠路遥々訪れたことに損はしなかったと思わせてくれる小サイクリングでした。

2007・初夏 小熊黒沢林道
 ツール・ド・美ヶ原の前日、小熊黒沢林道を走ってきました。林道から見た木崎湖から大町方面や、北アルプスの眺めが最高でした。
 

小熊黒沢林道から木崎湖方面
コース  木崎湖−小熊黒沢林道−木崎湖
走行距離  30キロ 積算標高 660m
最高地点  小熊黒沢林道(標高1300m) 晴れ GIANT TCR
 ツール・ド・美ヶ原も何年か続けて参加。毎年前年の記録更新が目標で、また実行できていたのですが、さすがにいつまでもは続きません。記録が頭打ちになったことや、折角遠くまで来るのだし、この季節の信州は山々に残った雪と新緑がとても美しく、四国ではお目にかかれない風景なので、同行のま〜し〜さんしおんさんなかやんさんと相談(というより半ば巻き込んだというのが正しい)して、前日に近場をサイクリングすることにしました。行き先は、小熊黒沢林道としました。この道を走るのは初めてですが、30年ほど前に帰路に走った道を逆走したことがあります。当時はまだまだ未舗装の部分がかなりあったような記憶です。

小熊黒沢林道を登る (平坦か下りのように見えますが)

西北方面に唯一展望が開けるところ
 さて、当日は木崎湖湖畔・ゆーぷる木崎にクルマをデポ。12時30分過ぎに湖畔を出発しました。まもなく小熊黒沢林道に入りました。林道は全線舗装、すぐに登り道となりますが、5%程度の登りよい道でした。高度はだんだんと上がって、時折木立の間から見える木崎湖は見える度に眼下へと遠ざかっていきました。この林道は稜線近くを走っているのですが、道沿いの木々が繁っており、意外と展望が得られる場所がありませんでした。西側は広く展望が広がった地点は、写真:上右の1ヵ所だけでした。

小熊黒沢林道を登る

後立山連峰
 クルマもほとんど通らないので、みんなでワイワイと喋りながら登っていくと、道が稜線のやや西側に回ったところで、樹林の上に残雪の後立山連峰と思われる山並みが姿を現しました。そこからしばらくの間は、木立の切れ間からこの雄大な後立山連峰の姿が見える度に歓声を挙げては立ち止まるばかりでした。

小熊黒沢林道を登る

鹿島槍ヶ岳方面
 一度少し稜線から下って再び少し登ると、今度は稜線の東側に出ました。間もなく地図できっと大パノラマが楽しめるだろうと予想していたポイントに到着しました。ハンググライダーかパラグライダーの出発地点でもあるような草原からは、直下に木崎湖、その向こうに大町市街、東には妙高高原方面、何等には美ヶ原方面まで遠望が可能でした(トップの写真)。大休憩を兼ねて、みんなそれぞれに風景を楽しみました。

爺ヶ岳方面?

後立山連峰
 そこからしばらくも稜線を縫うように走る道は落葉樹林に覆われクルマは全く通らない快適な道です。自転車乗りはみなさんよくご存知なのか、二組、数名のツーリングを楽しむ方を見かけました。パノラマ展望は上述以外の場所ではありませんでしたが、随所で後立山連峰が時折顔を覗かせてくれ、その度に立ち止まるのは、お決まりでした。

鹿島槍スキー場から西方面に

県道325号線、北アルプスをバックに
 稜線を走って少し下ると鹿島槍スキー場に当たります、ここから西側へと降りました。県道325号線を走って、デポ地へと戻ったのですが、この鹿島川に沿った道周辺の雰囲気がとても良かったです。前半は大きな落葉松林の中を走り、ほどなく山麓の田園地帯となります。この田園地帯、散在する民家と田園の風景は、なぜか前年エタップ観戦時に走ったPou郊外を思わせる佇まいでした。道幅が広く緩やかな下り基調のため快走してしまい、残念ながら写真がありません。何気ない道なのですが、小熊黒沢林道に劣らないいい道でした。

2007・春 杖突峠・高遠
 一度は訪れてみたかった、高遠の桜。初参加のツール・ド・八ヶ岳の週末がちょうど見頃になるかと思われたので、帰りに寄ってみました。あまりの観光客の多さにも驚きましたが、満開のコヒガンザクラはまさに一見の価値あり、でした。
 

杖突峠付近から八ヶ岳
コース  茅野−杖突峠−高遠
走行距離  30キロ  積算標高600m
最高地点  杖突峠(標高1247m) 天候:晴れ GIANT TCR
 当初はレース前日に高遠から杖突峠に向って走るつもりでしたが、小牧IC付近でパンクのため、途中下道に降りて土岐辺りでタイヤ交換。おまけに再び中央道に乗って走っていたところ、伊那辺りで少し前方路肩に炎上しているトラックがあり、消火活動のためまた小1時間足止めを食ってしまい、ツーリングは時間があればレース後へと変更しました。

中央道・伊那側から南アルプス

中央道・富士見付近から富士山
 ただこの日はとてもすっきりと晴れ渡り、中央道から見た南アルプスはこれまで何度も見ていましたが、これほど鮮明に見えたのは初めてでした。また4月半ばという残雪が程よく残った時期に見たのも初めてだったためか、いつもほとんど素通りしてしまっている道沿いの風景とは思えないくらいでした。さらに、もうすぐ小淵沢と言う手前からは、その名のとおり富士見というところから、いきなり眼前に富士山が出現。その姿は端麗で、神々しいといってもいいくらいでした。南アルプスといい、富士山といい、自転車で走っているのではないのですが、この光景を見れただけでも十分やってきた甲斐があったなあと思えるくらいでした。

八ヶ岳横断道路から八ヶ岳・赤岳

清里付近から南アルプス
 小淵沢で中央道に降りて八ヶ岳横断道路を進んだのですが、この道からみた八ヶ岳や南アルプス・富士山も迫力がありました。道路もクルマが少なく新緑には早過ぎましたが、この道も自転車で走るには最高のコースと思われました(最近PINARELLO主催のグランフォンドで使用されているようです)。新緑や紅葉の頃は、また別の世界が広がっていることでしょう。

杖突峠から八ヶ岳

杖突峠から諏訪湖
 さて、肝心のサイクリングです。レースは早々に終了したので、早めの昼食に信州ソバをいただき、一路茅野へ。間もなく国道152号線に入り、杖突峠への登りとなりました。この道、いろんな点で少しばかり期待していたのですが、一番驚いたのは降りてくる観光バスの多さ。8kmばかりの登り道で数十台のバスとその数倍の自家用車。他に何もないことから考えると、どうもほとんど全てが高遠の花見からの帰路のように思えました。
 峠への登りは、ゆっくり登ったこともありますが、比較的緩やかに感じました。鄙びた峠道、という期待・予想は全く裏切られ、高遠までずっと立派な2車線道路でした。道は落葉松林の中を走ります。この時期、木々はまだ枯れ木同様の具合なので随所で八ヶ岳方面を眺めることができました。峠付近よりも、その手前のほうが八ヶ岳方面の展望は素晴らしかったです。

杖突峠

高遠城の桜と背後は南アルプス
 峠手前にある展望台はなんと有料とのこと。峠自体はあまり趣がありませんでした。展望もあまりなし。ちょうど地元・諏訪にお住まいという自転車乗りの方に出会ったので、いろいろとお話を伺いました。やはりこの時期高遠の人出はとんでもないらしく伊那方面はさらにひどいとのこと。高遠城址の駐車場から一台クルマが出たら、伊那ICから一台クルマが出られるくらいという笑い話があるくらいだそう。地元の方にとっては、早朝か、夜桜見物に行くのが常識とのことでした。
 峠から高遠までは、向かい風ながらも下り基調なので、30km/hを越える快走。峠付近ではまだまだ蕾だったサクラも、高遠に近づくに連れて満開となってきました。ところどころでいい被写体になるかなあ、と思うところがありましたが、ほとんど素通りになってしまいました。

高遠城、満開の桜

高遠城、満開の桜と花見客
 漸く辿り着いた高遠城。いやあ、半端じゃありません、その人出。城址はちょっとした高台にあるのですが、街に入る手前からクルマの列。自転車はその横をすり抜けていけるのですが、この高台の何処にそんなスペースがあったのかと思う大駐車場には大型バスがぎっしり(おそらく100台は軽く越えていた)。まあ、うんざりするほどの人とクルマでしたが、やはりサクラは一見の価値ありでした。ちょうどほぼ満開。遠くには南アルプスが背景を飾ってくれるのですが、逆光となって写真がうまく撮れませんでした。次はいつ行けるかわかりませんが、できることなら早朝・まだ人が多少なりとも少ない時間帯に訪れてみたいものです。

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