Lombardia

    Bernina Express    (2018.07.16)


San Carlo の街外れにて 前方の山肌を Bernina Express が走っていく
 自転車ツーリングが旅の大部分を占めていますが、鉄道を利用した旅は決して嫌いではありません。むしろ、寝台特急に乗ってみたり各駅停車の車窓からの眺めを楽しんだりと、機会があれば好んで選択する手段です。Etape du Tour 参加時にも TGV を利用しての長距離鉄道移動があって結構喜んでいたのですが、如何せん日本の新幹線ほどトンネルこそ多くないものの、あまりに速すぎて景色をゆっくりと楽しむなんてことは無理でした。
 今回は、3日目に列車による移動がありました。しかも、彼の地では初めて自転車持ち込みでの乗車です(Etape du Tour時のTGV利用時、自転車はトラック輸送でした)。利用する Bernina Express(ベルニナ鉄道)については、なんとなく耳にしたことはあったのですが、事前にちょっとウェブで調べた程度。世界遺産にも登録されている有名な路線で、ループ状のところがあるという程度の知識しかありませんでした。
 この日の行程は、まず宿泊地・Bormio(ボルミオ)からTirano(ティラノ)まで、初日に走った Sentiero Valtellina の未走区間を自転車で走ります(左地図:参照)。Tirano からは Bernina Express に乗車して Bernina Pass(ベルニナ峠)近く(左地図:左上の赤い四角マーク)まで登って、Tirano まで自転車で下って来るというプランです。折角だから自転車で峠まで登って、帰路が鉄道のほうがいいのじゃないかなんて思っていましたが、結論から言うと、そんな考えが吹っ飛ぶ車窓光景が続く、素敵な登山鉄道でした。
 Bormio から Tirano までは約40q。Bormio の標高が1200m、Tirano は400mなので、ほとんど下りです。平坦に近い緩やかな部分が多いのですが、時にやや急な下り部分もあります。反対に走って来る自転車乗りの姿も多かったのですが、結構大変そうでした。もっとも、前述したように、この道を走っている自転車乗りは Fan Rider と呼ぶのがふさわしいツーリング派の人がほとんどで、ロードバイクでガッツリ走る人は一般道を走っているようでした。初日に Tirano まで走れていたら Sentiero Valtellina 全線走破だったので、そのことだけがちょっと残念でした。
 Sentiero Valtellina を走る
  左  専用道
  上  Adda 川沿いの専用道
  右上 同じくAdda 川沿い
  右  一般道を走る部分
 道は、牧草地などの中を通ったり、Adda(アッダ)川沿いの専用道路部分が多いのですが、一般道と兼用となっている部分もあります。距離としては専用道の方がずっと長かった印象です。クルマの来ない専用道は安全で快適ですが、意識してか街や村を避けて道がつけられているところが多く、道沿いの集落・街並みの光景も楽しみにしている私としては、時々現れる兼用道の方がうれしく思うこともありました。写真:下左は、Madonnna Della Biorca(マドンナ・デラ・ビオルカ)という街付近です。
 
 横手は流れるのは、初日と同じ・Lago di Como(コモ湖)に流れ込む Adda川。Bormio の奥が源流だそうです。途中、2か所ほど両側から山が迫ってきて狭くなるところがありました。初日に見た屋根付き橋が、この区間にも何本かありました。写真では道周囲ばかりに目が向きますが、前方にも、両側にも、振り返っても、見上げるような高い山々が連なっており、走っている時は、むしろそちらに圧倒されました。その雄大な風景の中を走っている姿をと何枚か写真を撮ったのですが、いいものがありません。 途中で何回か川を渡ります。写真:下右は、両側から山が迫って来ていて、少し谷状になった付近。Tiolo(ティオロ)という街辺りだったようです。基本的に、あっても緩やかなカーブしかない道の中で、ここはZ字の折れ返しで、勾配の変化も急だった例外的箇所でした。この橋の Bormio 側(写真の右手上流)には、川沿いの急斜面の中をコンクリート造りで周囲を林に覆われたちょっと薄暗い区間がありましたが、ちょうど対向する人も多くて写真を撮ることができませんでした。
 Grosio(グロージオ)付近では、北岸に古城の姿(写真:下右)。少し古いものと随分古い時代の遺跡のようなもの、遠目には二つが隣り合わせているように見えました。Castello Nouvo o Visconti Venosta と Castello Vecchio o di San Faustino いう建物(遺跡?)のようです。写真:下左上は Grosio を過ぎた付近の Sentiero Valtellina。直線部分が多く、このような牧草地帯を縫うようにカーブする部分は少なめです。平坦に見えますが、微妙に下り、しかも追い風でした。
 Grosio付近の光景
  左 タンクトップ姿の女性
  上 高規格道路と併走(動画)
  右 二つの古城
 Grosio は Bormio から Tirano までの半分と少し走った辺りですが、ここから先は山が少し後退して平地も広がり、あまり琴線に触れる光景がなかったのか写真がほとんどありません。下左上の2枚は、Adda 川とその横を走る Sentiero Valtellina。なんだか家が増えてきたなあと思ったら、Tirano でした。標高差800mの下り道40qを2時間半くらいかかって、目的地・Bernina Express(ベルニナ急行)の Tirano 駅に到着です(写真:下右)。駅舎の正面ですが、想像していたより随分小さくて、ここだけ見ると鉄道駅には見えません。中央口の横には、小さく世界遺産の認証が記されていました(写真:下中下)。
 Bernina Express の終着駅なので、横手に回ってみると、プラットホームが駅舎から伸びるように並んでいました。その西側にある、こちらが駅と言わんばかりの建物はイタリア国鉄の駅のようでした。こちらも終着駅のようです。停車している列車も見えます。駅前は小さな広場で、すぐ北には急峻な山が迫っていて、急斜面の中腹に教会の尖塔を中心とした小集落が見えました。
イタリア国鉄の Tirano 駅 斜めから見ると奥に線路 切符売り場 駅前、山の急斜面に小集落
 ところで、上のように世界遺産の認証にも Bernina Express と記載されているのですが、Rhaetian Railway(レーティッシュ鉄道)のベルニナ線区間というのが正式名称だそうです。私達が利用したのは、急行列車ではなく各駅停車。事前予約もいらず、急行列車と異なり車窓が開く各駅停車の方が景色も良く見えるとの話もウェブで確認していました。窓口で自転車(有料)分とともに切符を購入。改札口もなく、そのままプラットフォームに出て、やってきた列車の自転車専用車両に積み込みます。自転車を積み込んだら、適当に空いている座席へ。乗車率は60%くらいで余裕でした。
 左 プラットホームの雰囲気
 右 自転車用車両内部
 まもなく、出発。まずは初日に立ち寄った Santuario della Beata という教会脇、街中路上の線路を走っていきます。踏切や信号もなく、オープンカフェで寛ぐ人々のすぐ横を通っていくのが(写真:下左端・車窓から)、路面電車のような感じもあって、ちょっと不思議です。
 Tirano の街を出ると、まもなくイタリア・スイス国境ですが、全く気付かないうちに通過していました。最初の駅・Campocologno(カンポコローニョ)を過ぎて、Brusio(ブルージオ)駅手前には、有名なループ状の線路区間があります。ここは写真・動画を撮ろうと少し手前から構えていたのですが、肝心な時に何故かカメラがうまく作動しません。慌てて、なんとか撮れたのが下の5枚だけ。1:ループが見えてきたところ、2:ループをくぐる、3:振り返って、4;くぐった線路が下に、5:振り返って全容。
 ループ区間を過ぎると、近づいてきた Brusio の街も美しいです(写真:上右)。駅前で見たのと同じような、いったい何処から登るのだろうと思われるほど急な斜面のかなり上方に小さな村が見えるところが、またありました(写真:上中)。徳島でも祖谷など、川面からかなり高所に民家が見られる(おそらく気温や日当たりも考慮してのことでしょう)のですが、氷河でできた急峻で大きく深いU字谷を造る山斜面の大きさは桁違いです。
 さらに進むと、Lago di Poschiavo(ポスキアーボ湖)が見えてきました。湖を右手に、しばらく湖畔沿いを走ります。この辺りまでは、比較的ゆっくりと高度を上げながら、ほぼ北へ向いて走っていきます。事前にほとんど知らなかったので、勝手なイメージでは、こんな道程がずっと続くのかなと思っていました。普通列車の車内は、下の写真のような感じ。4人掛けのボックス席が左右にあって、日本の一般的な車両と同じです。ほとんどが観光客と思われました。
 左  Lago di Poschiavo
 上  San Carlo 付近
 右上 車内の光景
 右  どんどん登っていく
 ところが、Poschiavo(ポスキアボ)の街からSan Carlo(サン・カルロ)の街を過ぎると、線路はつづら折れを繰り返して一気に高度を上げていきます。先程横に見えていたLago di Poschiavo 周辺の光景が、どんどん眼下へ遠ざかっていきます(写真:下左)。進行方向が、あまりに目まぐるしく変わるので、方向感覚がなくなってしまいました。つづら折れになっているというのも、帰国後 Google map を拡大して初めて気づいた次第です。乗っている時は、いったい何処をどういう風に走っているのか、さっぱり見当がつきませんでした。
 スピードはとてもゆっくりなのに、高度上昇はとても速いです。とにかく、目まぐるしく方向が変わるので、「おおっ、いい風景」と思って写真を撮ろうとしても、すぐに車窓から消えたり、手前に木々が入ってきて邪魔をしたりします。先程左手に見えていた光景が、今度は右手に。満席ではなかったので、光景が変わる度に空いた席を左右に移動して車窓からの眺めを楽しむことができました。つづら折れで高度を稼ぐと、一端少し緩やかになって Cavaglia(カバグリア)駅です。到着する列車を待っているのは、トレッキング目的と思われる人がほとんどように見えました。Cavaglia 駅を過ぎると、またつづら折れ区間(これも後日Google mapで確認)で、さらに高度を上げていきます。
 左 左下から登ってきた
 上・右上 Cavaglia駅
 右 まだまだ登る
 見えてきたのは、大氷河と Lago Palu(パル湖)。稜線近くにある氷河付近は、何枚も写真を撮ったのですが、白とびしてしまったものが多く、その迫力・大きさが伝わりません。氷河からは、滝に近いような角度で水が流れ落ちています。その水が流れ込んでいるのが Lago Palu です(写真:下右)。Alp Grum(アルプ・グリュム)駅では、少し長めの停車でした。主な駅以外は単線のようで、複線のこの駅では対向列車と擦れ違いでした。Cavaglia 駅同様、トレッキングらしい姿の人多数。待っていると対抗する急行列車がやってきました。窓の違いが判るかと思います(写真:下左下)。急行列車は窓が頭上まで回り込んでいますが、開放できません。列車の間にいるのは普通列車の車掌さん。後方には、MTBに乗った人の姿も見えます。トレッキングコースを走ってきたのでしょうか。
 左上 大氷河
 左  車掌さんと急行列車
 上  Alp Grum 駅舎
 右  Lago Palu
 Alp Grum 駅を出ても、列車は、まだまだ高度を上げていきます。森林限界を超えたのか、周りの山肌に林はなくなって草原の斜面となりました。その中に、トレッキング用と思われる道が何本もあって、時々歩いている人の姿を見ることができました(写真:下左)。Lago Bianco(ビアンコ湖)が見えてくる(写真:下中)と、いよいよ最高地点です。標高2000mを越えたところに、こんな湖。もともと小さな二つの天然湖があったそうですが、水力発電ダムによって現在の Lago Bianco になったそうです。
    
 その湖畔にある Ospizio Brnina(オスピツィオ・ベルニナ)駅で下車(写真:下)。プラットフォームが低いので、一人なら自転車を降ろすのにもちょっと手間がかかりそうです。Alp Grum 駅とよく似た石造りの駅舎が、周囲の景観にマッチしています。Tirano から約1時間半。標高400mから2200mへ。JRの最高地点が小梅線の1375mですから如何に高所かよくわかります。気温も下がって、服を着こみます。事前から知っていたのはループ状のところだけでしたが、冒頭にも述べたように、あっという間に先程見えた町が遥か下方に遠ざかって、ずっと頭上に見えていた稜線が、これまたあれよあれよという間に目線に近づいてくる車窓の変化は驚くばかりでした。もちろん、こんなに高度が上昇すること自体も驚きです。スピードも遅いので、自転車で走っているかのように(思ったところでは止まれないですが)とても楽しめ、自転車がなくてもこれだけでも十分と思えるくらいでした。後方の木材を積むらしい貨車を見送って、国道までは未舗装の急な砂利道を自転車を押して登ります。
    
 ちょうどお昼時でしたが、駅付近に2軒ほどあったカフェは満席のため、そのまま下って途中で昼食休憩ということになりました。まずは、Bernina Pass(ベルニナ峠へ)へ向かいます。振り返って遠くの山々を見ると(写真:下左下)、北側へも下りたい気持ちになります。峠で記念撮影(写真:下中)。自転車で登ったのは標高差100m未満ですが。どちらを向いても周囲の山々の光景は目を見張るものばかり。自分の脚で登って来ていたら感動もさらに大きかったことでしょう。しかし Bernina Express はそれと同等以上の魅力がありました。
 記念撮影も手短に、下り始めます。道は、ほぼずっと2車線で広い。交通量は多いというほどではありませんが、バスやトラックも含めて、そこそこあるので慎重に下ります。登って来る自転車乗りとも、時々擦れ違います。ほとんどがロードバイクで、比較的ゆっくりの人もいましたが、何処かのチーム練習と思われるサポートカー付きのグループも見かけました。
 下るスピードは、周囲の風景を見るのに支障のない程度で。というか、そちらが優先で、下るのは二の次といったほうが正しい表現です。所々で、立ち止まっては撮影。それでも、同じ道を登ったら、単に疲れだけでなく、もっと立ち止まっていたことでしょう。残念ながら、曇り気味で発色がもうひとつです。しかし、山が大きいです。右手の稜線付近には氷河が見えるのですが、高所過ぎて、下っていく人を入れての写真は撮ることができません。
 写真:下右は、峠から半分くらい下ってきた付近から下っていく方向。谷底に見える街は、San Carlo です。Bernina Express は Tirano からこの街まで主要道にほぼ併走していますが、そこからは手前右手に見える山の向こう側斜面をつづら折れに登っているようです。谷底の街よりさらに低いところから、撮影場所より遥か高所まで登っているので、Bernina Express が短い距離でどれほど登っているかがよくわかると思います。
 さらに下って、San Carlo の街が近づいてきました。天気も回復、陽が差してきました。見上げて、稜線付近の氷河、見納めです(写真:下左上2枚)。ここからは、道路の勾配も緩やかになってきます。San Carlo から、Poschiavoの街へ(写真:下右)。ここで、ちょっと遅めの昼食休憩です。
 主要道から右手に折れて一歩街中へ入ると、教会脇の広場にはホテルやカフェなどが何軒か集まっています。そんな中の一軒で、いただいたのは、この地方の名物だという・蕎麦粉パスタ、ピツォッケリ(Pizhoccheri)。確かに蕎麦の色と香りです(写真:下中下)。味付けは、チーズやバターのようですが、やっぱりざるそばやかけそばが美味しいなあと思うのは、食べ慣れているからでしょうか。お店には、観光客だけでなく、地元の方と思われるおじいさんもやって来て、ゆっくりと食事をとっていました。
 ところで、ここはスイス。通貨はユーロではなく、スイスフラン。レートが異なるので少し割高になりますが、支払いはユーロでOKとのことでした。スイスは物価が高いと聞いていましたが、これに水(当然有料)で2000円弱。他の日イタリア内で昼食に食べたピッツァやパスタは1000円少々でした。日本ではあまり外食しないのですが、沢山ある全国チェーンなどの食べ物の価格を見ても、欧米人から見ると日本のお店の食べ物はとても安い(と何処かに書いてあった)とは、ある意味事実のようです。
 食事も終えて、ゆっくりと走行再開です。今日の行程も、もう少し。Prese(プレセ)の街で、ちょうど駅から列車が発車してくるところだったので止まって撮影(写真:下左上・動画)。Tirano(ティラノ)の街同様、ここでも道を片端に線路が埋み込まれて路面電車のようです。しかし、後で確認してみると、こんな区間は Tirano の街中とこの付近だけだったようです。列車が通過していくと後ろにはクルマの列、列車優先であることがよくわかります。続いて、往きも車窓から眺めた Lago di Poschiavoの湖畔沿いの道を走ります。右側通行なので、湖岸から離れた側を走らなくてはならず、ちょっと残念でした。交通量も増えてきて、2回ほど立ち止まって左側・湖岸側に寄ってみましたが、手前の電線が邪魔になって、思うような写真が撮れませんでした。
 右  ループ区間(動画)
 上  Lago di Poschiavo沿い
 左上 Prese近くで(動画)
 左下 Campocologno駅にて
 Brusioの街を過ぎると例のループ線です。Preseに続いて、なんとここでもラッキーなことに列車の通過を見ることができました。乗車時には撮影できなかった動画で(写真:上右)。私達が乗車したのと同じ普通列車のようです。最後尾には、やはり木材を運搬するためらしい車両が連結されていました。それほど運行本数は多くないと思われるのですが、帰路の短い間に特徴的な場面で列車と擦れ違えたことは、とても運が良かったと思います。
    
 Campocologno 駅を過ぎると、往きは列車の中で気づかなかった国境です(写真:上中)。特に何の表示も求められず停車もなしに通過。そのまま走ると、まもなく Tirano の街です。郊外では写真:上右のように、やはり Bernina Express の線路が道路の一部分と化しています。そのまま進んで、出発地点の Tirano 駅がこの日のゴールでした。街に入ってくると往路の車窓から見た通り、線路が道路の一部を占めたり横切ったりで面白い眺めでしたが、交通量も増えて、危ないので写真はありません。この付近で列車が通ったら、どんな感じだったのでしょう。峠を登る楽しみはなかったこの日でしたが、登山鉄道の素晴らしさを存分に味わえた一日となりました。

ご意見・ご感想・新しい情報はこちらへ

Lombardiaに戻る TOPに戻る

inserted by FC2 system