柴内の桜堂と吉良のエドヒガン桜をめぐる道
 柴内・桜堂の存在を知ったのは、全国の一本桜を特集したある雑誌ででした。それは小さな一枚の写真でしたが、標高のある山肌に立つ大きなエドヒガン桜の姿に目を奪われたものです。徳島県内にこんな桜があるのかと、載っていた簡略化された地図を頼りに、迷いながら初めて訪れたのは2010年の3月。満開には少し早かったのですが、想像をしていたよりずっと素晴らしい光景に圧倒され、これは是非と満開を狙って翌週も訪れたものです。一方、吉良のエドヒガン桜、徳島県内ではこちらの方が以前から有名な桜だったように思います(おそらく現在も)。私的には阿讃山脈を背に立つ柴内・桜堂のほうがお気に入りですが、数年前に強風のためか先端付近が折れてしまい、以前のような樹高がなくなってしまいました。そんなこともあって少し脚が遠のきつつあったのですが、今回はその付近にある未走の道を繋いで走ることをメインに、二つのエドヒガン桜が満開になる時を狙って訪れてきました。 (2022年 4月 10日 記)

貞光・白村集落付近から南西方向へ 奥は矢筈山方面 (2022.03.30)
 走ったコースは下図。未走の道、ひとつは柴内から貞光方面に下り、地形図では岡と標示がある南側のT字路から南・捨子方面へ進み、中山地区から谷筋に下って県道255号線に出る道。もうひとつは吉良から地形図の安場峠方面に走り、猿飼集落を経て鳴滝の横を通って土釜で国道438号線に戻るまでの林道猿飼線です。後者はその少し前に知人のブログで知るまで、そんな道があることにさえ気付いていませんでした。地形図で確認した時から、桜の時期に合わせて走ってみようと思っていました。
コース  貞光−桜堂−捨子−吉良−林道猿飼線−鳴滝−貞光
走行距離   45q   積算標高 1200m
最高地点   柴内・桜堂  標高440m
走行日   2022年 3月30日  天候:晴れ  GIANT CONTEND
 スタート地点は、いつもの貞光河川敷。午前8時半の気温は8℃、ちょっと肌寒く準冬仕様で走り始めます。河川敷の公園にも桜が満開。国道192号線からまもなく太田小学校方面の道に入ると、最近は柴内・桜堂の標示が随所にあって迷うことはありません。2010年に初めて訪れた時は貞光川側からだったのですが、桜堂の標示は一切なく、行けども登れどもそれらしきところに行き当たらず、間違えたかと諦め始めた時に、桜堂の小さな表示を見つけたのが懐かしい思い出です。太田小学校の少し東側から登り始めるのですが、徳島本線の線路脇にも見事な満開の桜(写真なし)が迎えてくれました。
貞光河川敷の桜 僧地付近の光景
 そこからすぐに、記憶通りのややきつい勾配の坂が始まります。10%を越えています。朝の初っ端からはきついですが、登っていくと僧地集落付近では少しなだらかになった斜面に開墾された畑脇に植えられた水仙や、次々と現れる満開の桜が気持ちに活力を与えてくれます。これ幸いと脚を止めて写真撮影休憩を繰り返します。
 下右下の写真は、妙見神社の桜。ここには幾種類かの桜が植えられており、いずれも満開。ボリュームのある見所ですが、その全体像をうまく捉えることができません。阿讃中央広域農道などでも見られる半鐘が、青空に映えていました。登る途中から2ヶ所、吉野川流域が鳥瞰できるところがあります。下左の写真は、ちょうど走った日の地方紙に紹介されていた僧地集落の方が設けた展望ポイントからだったようです。上流に向かって広々とした光景です。手前にある高圧線と鉄塔が残念。
 僧地集落を過ぎると展望は無くなりますが、道はソメイヨシノの並木に覆われるように進んでいきます。初めて訪れた2010年からしばらくは、桜堂のエドヒガン桜が満開だとここのソメイヨシノは咲き始めくらいのことが多く、ここが満開だと桜堂は時期遅しだったのですが、何時の頃からかほぼ同時期に満開になるようになっています。
 道が山肌に沿って南から西に方向を変える手前で桜並木は終了。一度少し下りがあって、さらに進むと民家が点在していて北側の展望が広がってきます。下左、奥は大滝山方面で、左手前の谷筋は県道7号線が走る野村谷川筋。下右、上の写真:走ってきた桜並木が山肌に連なっています。
 道なりに走って最後の三叉路を左手に折り返すと、まもなく桜堂です。初めて訪れた時、この三叉路にあった「芝内・桜堂→」の30p程の小さな立て看板が唯一の案内板でした。桜堂まで河川敷からほぼ10q、ちょうど1時間でした。以前は40分くらいで登っているようなので、脚力が落ちたことは一目瞭然。いつまで自走で登ってくることができるでしょうか。到着した桜堂のエドヒガン桜は満開。いつもの撮影ポイントには、三脚を構えた高齢の方が一名のみ。そこに登っていこうとすると、簡易コンクリートの舗装が為されており、丸太を切った4脚の椅子まで用意されていました。上述のように先端付近が折れて樹高が低くなったことと、周囲に植えられたソメイヨシノが成長したことで、エドヒガン桜の存在感が随分と薄くなってしまいました。大きくなったソメイヨシノで、名前の由来・桜堂の臙脂色の屋根も見づらくなっています。2010年当時の写真(ふたつ下)と比べてみると、一目瞭然。それでも人も少なく長閑て、満開の桜の元、30分程のんびりと過ごすことができました。
 高齢の方と少し話をしたりしながら、旧柴内小学校跡へも行ってみます。こちらにもエドヒガン桜でも、おそらくソメイヨシノでもない桜堂にも劣らないほどの大きな一本桜があります。ところが、同じ年のことでしょう、この桜も先端と北側の枝が大きく折れてしまい、随分と貧相になってしまいました。下右の写真、その折れた部分が写っていないので、幹元の自転車との比較、校舎の屋根を凌駕する樹高など、この場面だけ切り取るとまだまだ勢いのある大きな樹であることに間違いはありません。下左の写真は、再び桜堂に戻って見上げたところ。青空をバックにすると、上の写真より花数が少なく見えますが、以前と比較して花数自体は決して減っているようには見えません。ひとつひとつの花はソメイヨシノなどと比べると小さくて白く、やや細身で清楚。何枚かアップで撮ったのですが、アップに堪える1枚がありません。
 
 下左の写真は2010年3月28日の桜堂、下右は2012年4月12日の旧柴内小学校の桜です。今年の写真と比較して、いずれも樹高があることが良くわかるかと思います。いつ折れたのだろうと自分の記録を確認してみると、2016年に枝が折れていると記載しています。初訪以来毎年のように通っていたと思っていた桜堂ですが、2014年、2015年とは未訪だったようです。2013年は変わらぬ姿ですので、2013年から2016年の間に折れたようです。
 桜堂を十分堪能した後は、貞光方面へ下ります。最初は桜堂と同じ山の北側を西進します。写真:下右は吉野川と阿讃山脈。竜王山付近かと思います。吉野川沿いに黄色く見えるのは、菜の花畑です。さらに西へ進むと、小さな鞍部を越えて山の西側斜面へと出ます。初訪の2010年は逆走でしたが、桜堂は西側斜面にあると思い込んでいたので、この鞍部を越えた時には間違ったと思ったものでした。鞍部から短いZ字折れを下ると、西側に貞光川に沿った眺めが広がってきます。下左の写真は、北西方向。直下に見えるのは貞光の町です。
 下左の写真は、地形図で白村と記載されている辺りから西へ向いて。標高330mくらいですが、少しばかり広がる平坦なところには、僧地同様畑が作られています。この時期、作物の姿はほとんど見られませんが、所々には桜や同じバラ系の花が満開。ミツマタの花が満開のところもあります。貞光川を挟んで対岸の山斜面にも、こちら側と同じように民家が点在しており、遠目にも満開の桜の姿があちこちに見ることができるのも、この季節ならではの光景。井川町井内地区にも似た感じで、好みの景観です。地形図を見ると、いくつかの軽車道もあるので、来年走れる脚があれば、この時期に向かってみたいものです。
 標高200m弱まで下ったところにあるT字路で南方向へ左折します。写真:下左上のように、向かう予定・捨子(すっこ)の標示があります。ここからが初めての道・その一です。最初は民家があって明るい道ですが、まもなく大部分は杉木立の中になります。それでも、時に民家が出現したり、この時期ならではですが満開の桜に出くわしたりすることが気持に弾みを付けてくれます。路面は綺麗なアスファルト舗装で、多少落ち葉や枯れ枝があり、地形図の中山の手前までは登りです。
 そんな道を進んで行くと、お堂のような建物がありました。近づくと「15番捨子堂」との標示。ここでは見逃したのですが、その後吉良で見かけた吉良堂に30番とあった端山四国霊場のひとつのようです。調べてみると端四国霊場となっていましたが、吉良堂には端山と記載されていました。明るく開かれたお堂の周囲にも満開の桜です。とても素敵な雰囲気、おまけに誰もいないので独占です。
 捨子を過ぎると、中山方面に向かって道は勾配を増します。しばらく登ると畑のある民家に出て、そこからは下りでしたが、谷を挟んで対岸の斜面にも畑のある民家が点在する光景が広がってきました(写真:下2枚)。何度か走っている県道255号線沿い家賀道上付近かと思います。先に見た貞光川を挟んだ対岸の光景にもに似た感じです。
 そんな光景を目にしながら、その後は地形図で長木と記載がある付近から谷筋に沿って西へと下っていきます。地形図では一部徒歩道の記載となっていますが、下右のようなクルマも十分通ることができる道が繋がっています。下り切ると県道255号線に出て、まもなく国道438号線へ。国道438号線を少し遡って吉良方面へ右折します。
  
 ここもこれまでと異なり、横野方面に回り道してみました。直接吉良に向かう道もきついのですが、こちらも同様。小さく急な横野谷川に沿って登る道は、さほど見るべきところはありません。左手に大きくカーブする付近が横野集落ですが、半分は廃屋のようでした。一度登りきると下りとなって、途中から吉良集落の枝垂れ桜が見えるのですが、手前の木々が邪魔をしてすっきりと全体像は見えません。
左  横野集落、手前に崩れた廃屋
上  県道255号線に出たところ
右上 横野谷に沿う道を登る
右  横野を抜けて吉良方面の眺め
 ピークから少し下ると、吉良集落の外れに出てきました。ここからも短いながらもきつい勾配が待ち構えています。進むと、上述の捨子堂に似たお堂があります。これまで何度かこの道を登ってきている筈ですが、このお堂を認識したのは初めてのような気がします。下左上、軒下に端山四国霊場・第三十番吉良堂とあります。その手前には、見上げるような大木。椋木でしょうか? 下右の写真は、吉良のエドヒガン桜を見た後に向かった林道猿飼線から見下ろしたところです。吉良堂と駐車しているクルマとの対比から、樹の大きさがわかるかと思います。奥は対岸の長瀬集落付近だと思います。
 左  吉良堂横のチューリップ
 左上 吉良堂
 上  吉良堂横の大樹
 右  林道猿飼線から吉良堂と大樹
 さて、吉良のエドヒガン桜です。ここも何度か訪れているのですが、次第と樹勢が衰えているような感じていたことや、その割に人出も多いこと(と言っても多くて十名前後ですが)などもあって、今回の林道猿飼線のことが無ければ敢えて向かうことがなかったかもしません。しかし訪れてみると、これまでで一番見応えがありました。花数は多いし、色も濃い。ちょうど満開、これは立ち寄って良かった。
 これまで、エドヒガン桜から下った集落内に植えられている枝垂れ桜などのほうが見映えがあると思っていたくらいです。が、この日はそちらに下らず、引き返して林道猿飼線へ進みます。入り口は、念のためGPSで確認。ここも満開の桜が迎えてくれました。最初はコンクリート舗装の急坂です。ちょっと登ったところから上述の吉良堂が見下ろせました。が、その後は、杉林の中となり展望はありません。途中からアスファルト舗装に変わりました。枯葉などは多いですが、予想していたよりずっと綺麗な路面でした。そこそこの勾配で登って、ここかなと思ったピークから下り始めますが、その後も2回ほど緩い登り返しがありました。ピークまでは見晴らしが全くありませんが、その後2か所ほど貞光川沿いの展望が広がるところがありました。写真:下左、分かりにくいですが、国道438号線と土釜のトンネルも確認できます。
 林道猿飼線

 左  途中から貞光川上流方面
 上  吉良側の入り口
 右上 ほとんどが杉林の中
 右  貞光川を挟んで西側対岸
 そんな道を進み、猿飼集落へ出てきました。集落の一番手前(国道から登って来ると一番奥)にあった猿飼堂は捨子堂や吉良堂に似た造りです。てっきり端四国霊場のひとつかと思いましたが、横にあった説明でもそうではないようでした。ここも誰もいなくて、満開の桜を含めて独占です。写真:下左、お堂から。ちょうど真中の柱の横に国道438号線が見えています。標高差は150mくらい。
 猿飼集落はお堂の南側の緩やかな斜面に広がっています。下左の写真は、お堂から集落を眺めたところ。下右は、少し下って振り返ったところ。ちょうど稜線の真中に猿飼堂の赤い屋根が見えています。確かこの付近に展望台があるように聞いていたのですが、わかりませんでした。
 その後は道なりに下っていきます。途中、まだまだ満開の桜を楽しみます。桜の下には、貞光川と国道438号線。猿飼集落同様、対岸を走る国道438号線から見上げたことしかなかった鳴滝も、初めて間近に観ました。かなり落差があるのですが、降雨も少なかったので水量は少な目でした。
 土釜まで下って来ると、後は走り慣れた国道438号線でデポ地まで。吉良付近で一時的に雲が増えましたが、未走の道を楽しめた素晴らしい花見日和の一日となりました。

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