川への想い 

    2014 a la carte  遥かなる Col d'Aubisque    (2014.07.24)


Col d'Aubisque への道・D918 (Col du Soulor 西側から、Col d’Aubisqeu は右奥の鞍部付近)
 Col d’Aubisque その名は自転車ロードレースに興味を持つ人なら、一度は耳にしたことがあることと思います。Tour de France で何度もコースに組み込まれている重要な超級峠です。あまりに有名な峠ですが、実際はどんなところか全く知らなかった2012年、Etape du Tour のコースに Col d’Aubisqeu が含まれていると知って、次はないだろうと勢い込んで参加しました。ところが、Etape du Tour 当日その後の Col du Tourmalet、Col d’Aspin、Col de Payresourd の3峠も含めて、峠全てが雲の中。Col d’Aubisque も例外ではありませんでした。Pau 側からの登り途中から、Col du Soulor を越えて麓に下ってくる手前まで、雲の中でほとんど見晴らしがなかったのです。帰宅後、Tour de France 本番の映像を見て、雲の中にどれほど素晴らしい光景が隠れていたかを知って、これは絶対再訪して晴天時の光景を目の当たりに見たいものだと思ったのです。
 2014年の Etape du Tour は、Col du Tourmalet 周辺を走るため、宿泊地は Lourdes に連泊で、フリータイムの1日がありました。事前に地図で確認すると、Lourdes から Col d’Aubisque は十分日帰り可能と思われます。ということで、メインの Etape du Tour より、Col d’Aubisque を再訪することを一番の楽しみにして参加することにしたのです。ところが、肝心のフリーの日は朝から雨で万事休す。半ば諦めかけていたのですが、この機会を逃すと次はないと最終日に敢行。上々の天候の下に走ることができた Col d’Aubisque への道は、予想していたより遥かに素晴らしいものでした。

フランス・スペイン国境付近(右は拡大図)
 Col d’Aubisque はフランス・スペイン国境のピレネー山脈の北側、上左図の Pau の南、Lourdes の南西部に位置しています。上右の図は、Lourdes から南下後、西へ向けて走った道付近を拡大。左下の赤丸が Col d’Aubisque です。当時はスマホを所有しておらず、サイクルコンピュータもGPS利用でしたが地図表示はなし。そのため事前に拡大した Google map などでアナログ地図を作製して持って行きました。Lourdes から Col d’Aubisque へは、ほぼ1本道であまり問題ないだろうと思われたのですが、進路が南向きから西向きに変わる Argeles-Gazost という街中の道だけはとても入り組んでいて迷いそうに思われました。
 上述のように、予定していたフリーの日は雨天と前日のDNFから続く体調不良もあって断念。しかし、上手い具合に、最終日の Tour de France 観戦は Etape du Tour で走ったコース(ゴール3q手前でDNFでしたが)だったので、それなら観戦をキャンセルして(上手くいけば麓付近での観戦に間に合うかも)、Col d’Aubisque へ向かうことにしたのです。当初は一人で向かうつもりでしたが、私が Col d’Aubisque へ向かうことを知って、5人の方が一緒に行くことになりました。
 当日は上々の天気で始まりました。まずは2006年時に Tour de France 観戦のため Col du Tourmalet へ向かう時にも走った廃線跡を利用した自転車道で南進します。横手にはポー川が流れ、その後は牧草地の中を走っていくことは記憶に残っていたのですが、旧駅舎跡などの傍を通っていたことは全く記憶に残っていませんでした。写真がありませんが、早朝から自転車道を走っている人は多数。ほぼ平坦に近い道で Argeles-Gazost までは10q少々だったので、ゆっくり走っても40分ほどで到着。しかし、自転車道から一般道へ出ると、予想通り道が入り組んでいて Col d’Aubisque への道がわかりません。私の手持ち地図を確認したり、GPSを持っている人の地図を眺めてみたり、みんなで立ち止まり検討すること数回。街中は一方通行のところもあったりで、曲がりくねった狭い道を進み、そろそろ街外れに近くなったかと思うところになって、漸く Col d’Aubisque の標示を見つけました。もっとわかりやすい道があったのかもしれませんが、復路も同じ道だったのでメインの道だったのでしょう。
廃線跡利用の自転車道 牧草地の中を 旧駅舎跡 Argeles-Gazost に到着
 街を出るとD918を西進します。Argeles-Gazost の街中も坂道が多かったのですが、街を出てすぐに少し勾配のきつい区間がありました。が、その後は下の写真のように2車線の広い道で、走りやすい緩やかな勾配が続きます。周りは牧草地が多くて、時にトウモロコシ畑。交通量はそれほど多くないことも有難いです。もう峠まで登って引き返してきたのかと思うような人や、追い越して行く人の姿も次から次へと現れます。

手前はトウモロコシ畑

奥にはピレネー、スペイン国境
 D918を進みますが、それにしても自転車乗りが多数。バカンスシーズンですが、この日は weekday。しかし、これがフランスの夏の日常なのでしょう。右も左も前方も、見飽きない光景が続きます。遠くには、スペイン国境と思われる山岳も見えてきました。
 Aucun という町は、Argeles-Gazost から10q弱。小さな村といったほうがしっくりくる町並みです。町の中に入ると、道は少し狭くなりました。道沿いには石造りも混じった美しい民家が連なっています。家々の屋根は何処も同じような灰色のスレート様です。教会の屋根も同様。こちらでは当たり前の風景なのでしょうが、うれしくて写真を撮っていると、次々と自転車乗りが追い越していきます。下って来る人も多数。ほとんどの人がロードバイクで、荷物は持っておらず軽装です。町中にあった泉では、自転車乗りが入れ替わり立ち代わり水を補給していきます。どうも自転車を運搬しているらしいトレーラーを牽引した小型トラックを初めて見かけたのも、この町だった記憶です。多分走って登り、下りはクルマというツアーがあるのでしょう。その後、Col d’Aubisque を含めて同じようなトレーラーを牽引したトラックを何台も見かけました。
 スレート様の屋根の上には、まだまだ序の口なのでしょうがピレネーの山々が聳えています。こんな小さな町並みも大好きなので、あちらこちらで停まって写真撮影。道を走っていく自転車乗りは多いのですが、地元の方と思われる人の姿はあまり見かけませんでした。写真:下右、オレンジ色がD918 の標示、真中が Arrens-Marsous、下が Col d’Aubisque の標示です。
 Arrens-Marsous は、D918で Col d’Aubisque に東から向かうコース上では最後の町です。Aucun の町同様、ヨーロッパでは当たり前のことですが、周囲の風景や建物が美しい上に、電柱や電線、余計な看板類が一切なのがいいですね。Aucun では見かけなかったお店も目につきました。この時一緒に走った私を含めて6名、30歳代の一人を覗いて当時の年齢で52歳から67歳でした。フランス語が理解できるおひとりが食事のできそうなところを見つけて、帰路にここで食事をしようということになりました。
Arrens-Marsous の光景
 Arrens-Marsous の町を抜けると、ぐっと勾配がきつくなりました。いよいよ本格的な登りです。まずは、Col du Soulor へ。周囲の山々はピレネー本番と言わんばかりの様相を呈してきました。写真:下右、左手に大きく広がるU字谷の向こう斜面には牧歌的草原。一番奥に見える稜線はスペイン国境でしょう。そんな周囲の光景が、登りのしんどさを忘れさせてくれます。この付近になるとクルマの往来は随分と減って、自転車乗りのほうが多いくらいになってきました。

Arrens-Marsous の街並み

Col du Soulor への標示
 Arrens-Marsous から Col du Soulor までは、半ば辺りに極短い10数%の激坂があった以外は、ほぼ数〜10%程度だった記憶です。確認すると、距離7q少々で標高差550mくらいだったようで、感覚は当たっていますね。相変わらず、三々五々、単独〜数人のグループの自転車乗りが追い越していきます。待たなくても次々と自転車乗りが登場してくれるので、彼らを含めて何度も撮影。道には、ほとんど木陰がなかったのですが、暑くてたまらなかった記憶はありません。

山の名不明、氷河が見える

Arrens-Marsous 付近
 下右の写真は、Col du Soulor まで後1qの地点。名のある峠道ではよく目にする、距離や標高差、1qの平均勾配が記載された標示が立っています。周囲は樹木の姿が無くなって、森林限界を越えたようです(Col du Soulor の標高1474m)。峠の少し手前には、山肌斜面の草原にぽつりと1軒のレストランがありました。道路際には、お昼の定食〇〇ユーロの看板が出ていました(写真、撮り忘れ)。ここでのお昼も良さそうです。
 写真:下左、振り返ると、Arrens-Marsous の町がある付近は、随分と下方になりました。ヨーロッパのU字谷ならではの光景かと思います。左端に見える道路に、登って来る自転車乗りの姿。日本なら間違いなくあるガードレールや電柱・電線の姿が全くないことが、開放感を増しています。
 Col du Soulor に到着したのはもうお昼前だったような記憶です。峠には、峠の茶屋的なカフェがありましたが、ここでもクルマでやってきた人より自転車乗りのほうが圧倒的に多かったのは、下右の写真でわかる通り。下右上の写真は、Col du Soulor からCol d’Aubisque へ向いて撮った一枚。ちょうど峠の標示と稜線がクロスする付近が Col d’Aubisque です。トップの写真は、ここから少し Col d’Aubisque 方面に進んだところからのものです。2012年 Etape du Tour 当日はここも小雨で霧の中。視界は100mくらいでしたが、峠付近には応援してくれる人が結構多かったこと、その光景を撮ろうとしたのにカメラが作動しなかったことも懐かしい思い出です。
 
 ここからが Col d’Aubisque への道でも、最も印象的なところかと思います。2012年 Etape du Tour 当日はずっと霧雨で雲の中、視界は100mくらいだったので、こんな光景の中を走っていたとは全くわかりませんでした。下左の写真は、Col du Soulor から西を眺めたところを少しズームアップ。トップの写真でわかるように、斜度45°以上のとても大きな岩盤斜面のほぼ中央部を切り裂くようにD918が貫いています。国道438号線・剣山トンネル東側3q付近も、もっと角度のある崖の上を走るところがありますが、全体像のスケールはその数倍以上と思われます。写真:下右、ちょっと時間が前後しますが、Col d’Aubisque 方面に進んで振り返ったところ。トップの写真のように、斜面の麓から斜面の上方まで一枚に入れようとすると、どうしても小さな写真ではその大きさ・迫力がわかりにくいかと思います。下右の写真、道上に自転車乗りが小さく点状に見えるのがわかるでしょうか。
 下の写真は、上右の写真より手前(Col du Soulor 寄り)で振り返ったところです。上右の道路左端に見えるトンネルの向こう側からです。Col du Soulor は左端の稜線付近です。日本のような鉄製の味気ないガードレールがないことは景観的にいいのですが、ほとんど路面と高低差のない低い石造りのガードは、路肩に寄るのが怖いくらいです。 落ちると命の保証はないでしょう。2012年 Etape du Tour で走行時は霧の中だったので、その怖さを知らずに済んだのはある意味良かったのかもしれません。この付近までは、一度緩やかに下ります。センターラインが写っていますが、道は決して広くなく、大型車だと擦れ違うのが困難です。
 似たような写真ばかりで恐縮ですが、走り去るのが勿体ない光景が続くので、ついつい写真撮影ストップです。これくらいに拡大すると、トンネル前後を走る自転車乗り達の姿が確認できるでしょうか。左端辺りにはクルマの姿も。この写真1枚を見ても、クルマより自転車乗りの数が圧倒的に多いことがよくわかると思います。こんな道が作られたことも驚きですが、維持できるのは岩盤が硬くて、日本のような地震や台風などの自然災害が少ないためかもしれません。
 上の付近を過ぎると、道は Col d’Aubisque に向かって再び登り始めます。下左の写真は、Col du Soulor から少し西へ進んだところから Asson 方面に向かうD126周辺の光景です。当初のフリーの日に走ることができれば、帰路はこの道を通ってみようと思っていました。D918から見たD126周辺の光景も非常に魅力的です。この日は最終日のため Hautacam で Tour de France 観戦終了後、即後片付けをして帰国準備だったので、Argeles-Gazost へ引き返さなければならず、D126へ進むことはできませんでした、残念。
 大きな岩盤状の斜面を通り過ぎた後、しばらくの間は勾配が少しきつい区間が続きます(写真:上右2枚、下左)。前述のように、ほとんどの人がロードバイクですが、バリバリに追い込んで走っている人の姿はほとんどなく、みなさんマイペースで走ることを楽しんでいる感じでした。Col d’Aubisque に近づいてくると、勾配は少し緩やかになってきました(写真:下右)。
 道の両側には、見渡す限り草原が広がっています。あちこちに、牛や羊、それに馬の姿も。風の音の中に、カウベルが長閑に響き渡ります。写真:下右上、小さいのでわかりませんが、ほぼ稜線近くまで沢山の家畜の姿が点々と見えていました。稜線の向こうはスペインかなと思ってみていましたが、地図を確認すると、国境はまだ少し南側に離れているようです。道の中央にもお構いなく、牛の姿。
 最後はなだらかな草原の道を走って、Col d’Aubisque に到着しました(写真:下右3枚)。Lourdes から約40q、ほぼ4時間かかっています。何度も書いてしまいますが、逆走で登ってきた2012年時は、当然ここも霧の中で視界も悪く(写真を見ていただければ一目瞭然)、かろうじて1枚撮った写真は下中の峠の標示だけでした。今回は、改めてゆっくりと峠付近の光景を楽しみます。
 下左の写真は、峠を越えて西側。思わず進んでみたくなるような、ピレネーの高峰が続いています。峠には、大きな自転車のオブジェが3台。常設のようで、Google map でも確認できますし、その後何度か Tour de France で通過した際の放送時にも、同じ姿が大写しになることがありました。峠の標識と同様に、到着した自転車乗りが入れ替わり立ち代わりやってきて写真撮影していました。
 峠には、Hotel D’Aubisque との看板を掲げた建物がありました。宿泊もできるようですが、食事もOKのようです。オープンカフェで寛いでいるのは、ほとんど自転車乗りばかりです。お昼も過ぎていたので、ここで食事をすることにしました。まずはビールで乾杯。フランスのビールは日本の味と少し異なることが多いと思うのですが、ここのビールはよく冷えていて美味しかったです。観戦をすっぽかしてもやってきて良かったとはみなさんの弁。メニューを見ていたところ、元気のいいお兄さんが「今日の定食は地鶏だぜ、モモかムネ、どちらかだ」と自分の体を指さしながら英語で注文を取りにきました。みんなそれぞれどちらかを選んだのですが、これがまた美味しかった。2014年のツアー中に食べた食事の中で一番、とはみんなの共通意見。生野菜がたっぷりと盛られていたことも、こちらではあまり見かけないことでした。素晴らしい光景の中を走ってきて美味しい食事。ワイワイと団欒を楽しんでいるうちに時間も押し迫ってきました。ふと周囲をみると、いつの間にか山々の峰は雲の中に隠れ始めています。
 峠の茶屋・Hotel D’Aubisque  
 名残惜しく、Col d’Aubisque を後にします。雲はどんどん下がってきて、気温も少し下がってきました。下りもゆっくりとですが、さすがに登りよりは速い。それでも先程登ってきたばかりの道を少しでもはっきりと記憶に留めるように。Arrens-Marsous の町で小休憩の後は、Argeles-Gazost まで。往路ではまだ閑散としていた街中のカフェも多数の人で賑わっていました。カフェで寛ぐ自転車乗りの姿もあちこちに見られます。
 左  Arrens-Marsous チーズ店
 左上 D918を下る
 上  Arrens-Marsous の町
 右  Argeles-Gazost のカフェ
 Arrens-Marsous の街中を下ったところで、Hautacam の麓を目指します。やはり少しわかりづらく、地元の方らしき人に道を訊ねて教えてもらいました。Argeles-Gazost の街中は迷路のような道なのですが、もし今後自転車でこの地を訪れる方がいらしたら、Col d’Aubisque と誰かに聞けば、きっと答えてくれると思います。それほど、ここからの道には自転車乗りが多かったのです。

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