林道阿佐名頃線
 8月、9月と週末毎に天候がすぐれなかった2022年。その反動かのように10月の週末は好天が続きました。11月3日も好天が予想されたため、前日から何処へ行こうかと地図を眺めながら思いを巡らしていました。山へ登るのも良さそうだし、あっちへも行ってみたいし、こっちも走ってみたい。そんな中で選択したのは未走の林道阿佐名頃線です。この道は2016年にみんなで天狗塚から牛の背を歩いた時に登り口までクルマで乗せていってもらっているのですが、車酔いで周囲の光景は全く記憶に残っていません。道は落合峠から南に見える山腹を横走しているのですが、それほど魅力があるようにも思えず、これまで自転車で走ったことはありませんでした。しかし訪れてみると、最高の青空の下、予想を遥かに越える雄大な光景に出会うことができました。 (2022年11月11日 記)

林道阿佐名頃線 標高1000m付近から 天狗峠方面 (2022.11.03)
 コースは下図の通り。祖谷口までの県道32号線を走りたかったので阿波川口発着も考えましたが、現状の脚力では肝心の林道を走る余裕がなくなってしまいそうです。ということで、発着はかずら橋としました。すぐ横に広い公共の有料駐車場があるので、そこまでクルマです。ところが午前8時前に到着してみると、なんと駐車場開門が午前9時。幸い道を挟んで個人経営の駐車場があったので、そこにデポ(300円)。
 
コース  かずら橋−林道阿佐名頃線−林道久保蔭線−釣井−かずら橋
走行距離   70q   積算標高 1800m
最高地点   林道阿佐名頃線ピーク  標高1150m
走行日   2022年11月 3日  天候:快晴  GIANT CONTEND
 午前8時、まだ人の姿もないかずら橋に立ち寄ります。県道32号線は何度も走っているのですが、かずら橋は人が多いのでいつも素通りです。この隣りに昔からある橋のところへ下りてきたのは、初めて自転車で訪れた1973年以来、ほぼ半世紀ぶりでした。かずら橋の様子は全く変わりませんが、公共駐車場や宿などの様相は随分変わりました。もちろん、県道32号線も。その県道32号線へと進みますが、このかずら橋〜国道439号線合流部までの区間を走るのも、確認すると2014年10月以来のようです。
 祖谷川の川面までにはまだ陽が差し込んでいませんでしたが、道沿いには色付いた木々も多く、紅葉(黄葉がほとんど)がこれほど楽しめるとは思ってもいませんでした(上下の写真)。時々、祖谷川を覗き込んでみますが、陽が当たらないので透明度はありそうでしたが、写真はありません。ツール・ド・西阿波でエイドステーションだった国道439号線合流地点で右折(下中の写真、右手から奥へ)。すぐに左折して橋を渡り、林道阿佐名頃線が始まります。
 上   国道439号線合流部
 左右 県道32号線から祖谷川
 すぐにコーナーを繰り返す坂道となって2qほど走ったところで、阿佐家住宅への分岐がありました。もう一度やって来ることはないだろうと向かってみることにしました。事前に内部も見学できるような情報を得ていたのですが、到着してみると建物は閉じられたたままです。隣接していた現所有者らしい家屋も、表にクルマが2台停まっていたのですが、静まり返っていたので外観だけ見て先へ進むことにしました。阿佐家は道から少し下ったところにあるのですが、戻る道から東南方向に京柱峠方面の眺めが広がっていました。写真:下右、奥の稜線・ほぼ中央の鞍部がそうです。写真が小さいので判別できませんが、横にある鉄塔も確認できました。斜めに横断する電線が邪魔になったので、何処か条件のいいところがないかと捜したのですが、結局この後京柱峠の展望があるところはありませんでした。

阿佐家住宅

阿佐家への分岐(奥へ)
 再び林道阿佐名頃線に戻って標高を稼いでいきます。写真:下左は阿佐家から戻ってきて程ないところから、麦生土(むじゅうど)という集落です。草刈り機のエンジン音が響いていました。この後、林道阿佐名頃線沿いには釜ヶ谷、九鬼、西山と三つの集落(いずれも十軒ほど)があるのですが、何処も人がしっかりと暮らしている様が見て取れ、廃屋の姿はほとんど見かけませんでした。道は写真:下中のようなところが多く、結局ほぼ全線舗装(アスファルト&コンクリート)でした。路面の状態もまずまずで、25Cのタイヤでも問題なく走行可能と思われました。勾配も10%を越えるところは一部だけ。北に連なる山々と、その中腹辺りに点々と散在する民家の光景を眺めながら東へと進んでいきます。途中で30mくらいの長さで崩落後補修したところがありました。とくしま林道ナビで長らく通行止めと標示されていたのですが、その原因になっていたところかと思われます。
左  麦生土集落
上  林道阿佐名頃線
右上 谷筋は京上、山肌に大枝集落
右下 崩落改修部分
 そんな道を進んでいくと、最初に出くわした雄大な光景が下の写真。右上が落合山だと思います。中央付近の三角峰は前烏帽子山でしょうか。下に見える集落は地形図で奥ノ井と記載されているところだと思います。東祖谷の山の奥深さを感じる一枚です。ちなみに稜線は標高1600m前後、奥ノ井集落は標高700〜750mほどに立地。この後の写真にも言えることですが、紅葉の色(黄〜赤)の発色がもうひとつ。肉眼ではもう少し鮮やかでした。
 落合峠から遠目に眺める山肌は、遠方であることもあってか紅葉の姿はいつも全く確認できなかったので、道沿いの植生にはさほど期待していませんでした。が、進んでいく道すがら、そこそこ色付いた木々が続いています。上の写真でもわかるように抜けるような青空。秋の陽光としては強めで、日影とのコントラストが何処でも強かったです。日影では寒いくらいでしたが、陽が当たるとやや暑いくらい。
 写真:下左は、九鬼と記された集落付近だったと思います。左手の斜面は祖谷川の北側で、奥に見えているのはおそらく久保集落。右手からの稜線との交差部に小さく山がのぞいています。下右の写真は、そこから少し進んだところから久保集落付近をズームアップ。左右の稜線の交点後方は、おそらく塔丸、さらに奥に小さく見えるのは丸笹山かと思われます。写真を撮っていると、クルマでやってきた私と同年配かと思われる方と立ち話をしたのは、釜ヶ谷と九鬼の間だったので、この少し手前。大阪在住で御尊父の一周忌で近くに帰省中で、この道は初めてのことでした。見える光景や林業についてなど、しばし四方山話。地形図では九鬼集落の最上部付近で林道阿佐名頃線を示す軽車道が途絶しており、西山集落まで記載されていません(Google map では連続)。下方にある一車線道は別の道で東祖谷西山と記載のある東の右手で合流します。
 集落間毎に多少のアップダウンがある道を東へ進みます。写真:下左は九鬼から少し東へ進んだところから振り返って。後の稜線、中央の一番高いところが落合山です。その右手の稜線の窪みが落合峠で、さらに右手のくすんだ黄緑がいつも登る落合峠から東手・クマザサ原の稜線。下右上が、落合峠付近をズームアップした写真です。山腹左手に見える集落が落合集落。左手のピークに見えるところは前烏帽子かと思います。

落合峠、ズームアップ

西山集落の民家を上方から
 西山集落までは下って、その後はピークの天狗塚登り口・イザリ峠まで登りです。進みながら右手を見上げると、その天狗塚(おそらく中央部の窪んで見えるところから飛び出た峰)から牛の背方面の稜線が広々と見えてきました(写真:下左)。その付近でコンクリートミキサー車が入って工事中の箇所がありましたが、それ以外は上述の大阪の方以外、通行するクルマとは全く出会いませんでした。道は写真:下右2枚のような感じで続いていきます。アスファルトの舗装状態は上々です。平坦に見えますが、そこそこ登っています(7〜8%)。下の分岐には、天狗塚方面の案内板がありました。右手に登っていきます。左手に下ると国道439号線に出るようです。
 ゆっくりと登りながら振り返ると、先程通ってきた西山集落が随分下方に(写真:下)。西山は写真に見えている範囲だけでも高低差が150mほどあります。地形図で途絶えている林道は、左からの稜線を周って集落の一番上の辺りに出てきて、民家が多く見える地点まで一度下ります。右手の中腹に見えるのは、その前から見えていた久保集落。後方の稜線・ほぼ中央に落合峠、左手に落合山、右手にサガリハゲ山。サガリハゲ山の左手奥の三角山は矢筈山かもしれないと思っていましたが、どうも矢筈山西側のピークのようです。向こう側から見た光景も雄大ですが、こちらからの眺めも決して劣ることがありません。
 上の写真を撮ったところから少し進むと、工事の資材置き場のような広場に出てきました。写真:下左は北へ向いて。落合峠を中心として、右手にサガリハゲ山、左手に落合山。下右は南からやや東寄り、上方に見える稜線が天狗塚方面です。標高は1000mを越えて1100mに向かう間くらいです。落合峠からは深い緑一色に見える山肌ですが(逆光のせいもあるのかもしれません)、こうして間近にみると紅葉する落葉樹林が山の半分以上を占めているように見えます。
 下の写真も上2枚とほぼ同じ場所、上右の写真の左手です。進んでいく道は左にカーブして、この山肌を縫っていき、上からの尾根筋が道に当たるところが、天狗塚の登り口・イザリ峠です。牛の背方面からの登山道もあるようで、確かこの前後で路肩に2台のクルマが停車しており、下山したばかりかと思われる方の姿が見えました。
 この広場から後、唯一の短い未舗装区間があります。もっと続くのかと思い気合を入れて進んだところ、100mもあったかどうかで終わってしまいました。前述のように、ここだけ押してでもクリアすれば25Cのタイヤでも全く問題ないと思います。未舗装部分が終わるとまもなく覚えのある天狗塚の登り口・イザリ峠に到着、11時半。登り口にはスタート地点までの移動用と思われる小径車と数台のクルマ、すぐ東手の駐車場にも数台のクルマが停車していました。みなさん天狗塚方面に登られていたのでしょうが、さぞかし素晴らしい眺めを楽しめたことだと思います。

イザリ峠やや東手から久保集落

天狗塚登山口・イザリ峠
 ここからはほぼ下りです。林道阿佐名頃線は菅生まで続いているのですが、今回は菅生谷川を渡る300mほど手前で Google map には記載がある道へと左折・西へ折り返すことにしました。この道、久保蔭集落に続いているのですが、これまた地形図には載っていません。林道阿佐名頃線と異なり鬱蒼とした杉林の中を下っていきます。下り始めてまもなく、前方に何やら動物の姿。イノシシにしては少し足が長いように見えます。近づく前に右手の林の中に消えていきました。ひょっとしてと近くまで行って目を凝らしてみると、思った通りカモシカでした。
久保蔭線分岐部 カモシカ 道標 杉林が続く
 そのまま進んでいくと、久保蔭の集落に出てきました(写真:下左)。奥に見えるのは久保集落。こちらは北面斜面なので蔭がつくのかもしれません。下ると国道439号線へ出てしまうので、手前左へまた少し登りです。林道久保蔭線という標示がありました。やはり薄暗い杉林の中を走ることが多い道でした。集落を抜けて西へ進んだところ、T字路に突き当たりました。GPSで確認すると勾配のきつい左手の道へ進むようです。地形図では天狗塚登り口から尾根沿いに続く徒歩道がクロスするところです。10%を越える坂を登り返して、西山集落の一車線道に出る手前にお堂、反対側にはあまり使われていないように見える集会所がありました。そのすぐ上で一車線道に出てしばらく進むと、大きな左カーブのところ(写真:下右)に、落合集落展望所1.5kmの案内板がありました。地形図ではUターンする一車線道から軽車道が出ているところです。
左  久保蔭集落
上  西山集落のお堂
右上 九鬼集落のコーナー
右下 写真↑右手にある案内標示
 落合峠から下って来ると、対岸を登ったところに展望台があることは以前から知っていました。が、いつも登り返すのが嫌で訪れたことがありませんでした。しかし今回こそはと、この中上集落の落合集落展望所に立ち寄ってみました。写真でも何度か目にしたことのある光景でしたが、目の当たりに見ると予想以上に落合集落全体が高低差を持って眺められる素晴らしいところでした。やはり直接見るのは大違いです。何枚か写真を撮りましたが、真正面からが一番かと思います。一番下に並ぶ民家の手前に祖谷川が流れ、背後に国道439号線が走っています。つづら折れの道沿いに、適度な間隔を持って建てられた民家が周囲の小さな畑とともに均整のある景観を生み出しています。所々に残る大きな樹木の存在もいいアクセントです。
 中上集落から国道439号線に下ってくると、時刻は13時半過ぎ。かずら橋までは20qほどなので、もうひとつ寄り道出来そうです。ということで国道439号線(旧道のあるとこるは旧道)を8qほど戻ったところから釣井集落に向けて最後の登りです。ずっと以前に「美しき日本の残像」アレックス・カー著を読んで以来気になっていたちいおりを訪れることが目的です。この辺りにあるらしいことは知っていましたが、これまた中上同様登り返すの大変そうで、何度も国道439号線を走りながらこの辺りかなあと見上げていたものです。途中に木村家という住宅もあるらしいので、そちらも寄る立ち寄ることにしました。
 ところが、向かってみたところ木村家は休館中。ちいおりは公道から少し歩いて下るようなのですが、なんだか入っていきづらい雰囲気。結局いずれも上から茅葺屋根を眺めるだけで終わってしまいました(上左:木村家、下右ちいおり)。しかし、どちらも東南方面の眺望が広がっており、三嶺から天狗塚方面の展望を居ながらにして楽しめそうな場所でした。地形図では、釣井集落の最上部付近からは吾橋からかずら橋に走った時に出てきた今久保集落まで軽車道が続いているので、ちょうどそこにいた地元の方に尋ねたところ、通行不可とのこと。ということで、林道熊谷線で県道32号線に戻ってかずら橋へ。15時前でしたが、かずら橋周辺には、まだまだ多くの観光客で賑わっていました。
 とにかく初めてというだけで選択した道で、周辺の光景にもさほど期待はしていなかったのですが、いい意味で予想を裏切られました。上述したように、落合峠側から見た光景とはまた異なった良さがありました。一番は山肌に点在する集落の光景です。落合峠からだと集落の存在はほとんどわかりません。山奥の、そのまた標高のある山肌にある集落。いずれもまだまだ人が暮らしている姿が、祖谷独特の光景を醸し出していました。ただ、現在住まわれている方々の多くは、おそらく私より年長。果たして、この光景がいつまで続くのか・・・。

 ご意見・ご感想・新しい情報はこちらへ

ツーリング徳島へ戻る  TOPに戻る

inserted by FC2 system