愛媛・香川を跨ぐ二つの道  県道9号線 と 市道金見谷線・森林管理道石砂線
 愛媛県と香川県の県境は、余木崎から境目トンネルの少し北側まで直線距離で8qほど。大部分は阿讃山脈から繋がる標高500m前後の尾根筋です。両県を跨ぐ道は、海岸沿いを走る国道11号線と高速道路以外に県道9号線だけだと思っていました。ところが、前年サイクリング中に出会ったおかだま05さんから、県道9号線の南東側にもう1本道が通じていることを教えていただきました。地形図で確認してみると、確かに実線(軽車道)が続いています。2015年に切山地区から下川方面に下る道(市道下谷線)を走ったことがあるのですが、その時にはこの道の存在に全く気付いていませんでした。どんな道なのか興味津々で向かってみました。 (2022年 3月 10日 記)

愛媛香川県境 森林管理道石砂線終点付近から南西に向いて 奥は赤石山系 (2022.02.26)
 走ったコースは下図。右は、この日のメイン・切山から下川方面に下り、市道金見谷線を登って県境を越え、森林管理道石砂線で海老済石砂地区へ下る部分の地形図です。高低図の白抜き部分は道がトレースできなかったので、地形図を参考にフリーハンドで引いています。
コース 萩の丘−県道9号線−下川−肥窪−海老済−五郷財田線−萩の丘
走行距離   40q弱   積算標高 1000m足らず
最高地点   森林管理道石砂線  標高440m
走行日   2022年 2月26日  天候:晴れ  GIANT CONTEND
 スタートは、大野原町・萩の丘公園。この日は漸く春の兆しが見えて昼間は10℃を越える予報でしたが、午前8時半過ぎの気温は氷点下でした。冷える中、まずは何度か走っている県道9号線へと向かいます。何時以来かなと確認したら、直近は2019年8月だったようです。県道8号線から県道9号線に入って、とりあえず折角なので豊稔ダムに立ち寄ってみました。この冬は降水量が少なかったのでダム湖・豊稔池の貯水量は少ないだろうと思っていたのですが、予想外の満水。オーバーフローなのか、二門から水が流れ落ちていました。

満水の豊稔池
 県道9号線に戻って西進していると、前方から二人の自転車乗りがやってきました。フラットバーの男性と小柄な女性。PINALLEROに乗る女性は、前回2019年にも擦れ違った方でしょうか。田野々地区に入ると、道は一旦平坦になります。柞田川に沿って盆地状に広がった地形ですが、田畑と点在する農家らしき民家の姿が、暖かい陽射しも相まって穏やかで心落ち着く光景です。残念ながら民家の写真はなし。写真:下左は、その付近にある法泉寺。田野々地区を過ぎると、道の勾配は少しずつ上がっていきます(写真:下右)。
 進んでいくと日陰のところでは路肩に雪が残っていました。県道9号線の最高地点は県境(写真:下右中)ではなく、少し愛媛側に進んだところですが、県境が唐谷峠と呼ばれるようです。標高420mほど。県境には阿讃縦走路の小さな標示があって、北側は大谷山への標示がありました。地形図では、この道も軽車道として記されているのですが、入り口からの雰囲気ではとても自転車で進む気になれない登山道に見えました。
 ところで、この県道9号線はいつ開通したのでしょうか?1984年・1985年と川之江に住んでいた時に一度向かって見たことがあったのですが、途中で畑の中となって道が途切れた記憶が残っています。当時は自転車でゆっくり走れる時間もなく、また情報も限られ、いつも利用していたワラヂヤの道路地図(昨今なら昭文社のツーリングマップルに近い縮尺)にも、確か県境を越えた道は記載されていなかった記憶です。調べてみると1993年5月に主要地方道として指定されたとあったので、道はそれ以前に開通していたのでしょう。今回道脇に良く見られる竣工を記す石標を探そうと思っていたのに、走っているうちに忘れていました。次回走る際には忘れないように気を付けて探してみます。
 
 県境を越えると北に燧灘が望めるのですが、この日は霞んでいて眺望はさっぱり。海も確認できませんでした(写真:下左)。最高地点を越えると、西への展望が広がってきます。写真:上左、四国中央市となった川之江・伊予三島の全貌、背後には冠雪の赤石山系が迫っています。富山湾を隔てた立山連峰の眺めにはとても及びませんが、海岸から一気に標高1700m前後で迫る山々の姿は四国とは思われない光景かと思います。右二本の煙突の奥には石鎚山が見える筈ですし、右手には条件が良ければ今治からしまなみ海道、本州まで一望できると思われるのですが、もう10回くらい走っているのに未だに霞んでいる日ばかりなのが残念でなりません。一度、すっきりとした展望の日にやってきたいものです。
 切山地区を右手に眺めながら(写真:下中)、下川方面に下る道(市道下谷線)へ向かいます。写真:下右がその分岐部。左手が進む方向です。2015年に走った時もここから下った筈ですが、記憶は曖昧でした。少し下った切山地区からも市道下谷線に繋がる道があるようです。
  
 前回走った時は、落石と枝葉に加えて出水で荒れた道だった印象が強い市道下谷線。最初は雑木の山肌をトラバースするように進みます。途中で、切山方面からの道と思われる分岐も確認できました。さらに進むと、また分岐がありました。標示があって、しっかりした道に見える左手は林道金見山線、進む予定の道は右手で市道下谷線と記載がありました。林道金見山線は後半徒歩道で、その後向かう予定の肥窪という地区に繋がっているようです。下川方面に下って香川県に抜ける道は市道金見谷線ということも、この表示板で知りました。
左 林道金見山線分岐部までの道
上 林道分岐部、右手奥へ進む
右 分岐の標示、林道は左手・行止
 分岐からは下り勾配がきつくなります(写真:下左)。コンクリート舗装ですが、路面は2015年の印象ほどは荒れていません。多少なりとクルマが通行しているようです。ただ、所々では落石があって、慎重に下ります(写真:下右)。狭い谷筋で、周囲は鬱蒼とした杉・檜林のところがほとんどです。左手には下川川が流れています。ここにも路肩に雪が残っているところがありました。
 最初に左手、次に右手にと二つの小さな神社がありましたが、その付近から路面の落石や枝葉がなくなってきました。時には、写真:下左のように雑木林となって明るいところも。ほぼ下り切る手前で、先日ひとつ下手で間違えて曲がってしまった市道金見谷線の分岐部を確認しました。写真:下右、左奥から下ってきて、下川川の小さな橋を渡って右奥に進みます。
 この道で間違いないと進み始めたのですが、地形図では一度谷川の右岸に渡っているように記載されているのに、ずっと左岸を進んでいきます。国土地理院地形図を利用するGPSで確かめようとしてみましたが、うまくいきません。まあ、この道しかない筈だと進みます。下2枚の写真からもわかるように、路面には落下物もなく、市道下谷線よりクルマが入っているようです。林業関係の方かなと、その時点では思っていました。走り続けると、短いながらも20%を越えるところが2か所。その他の部分も結構きつい勾配が続きます。前半は相変わらずの杉林でしたが、まもなく少し開けて、左手に鶏舎か何かだったのかなと思われる廃屋が見えてきました。地形図にある少し長い建物でしょうか。
 さらに登っていきます。肥窪という所には地形図に3つほど建物の印がありますが、きっと廃屋だろうと思っていました。ところが、道なりに進んでいくと、洗濯物を干した家屋が見えてきて、道はその家に入って終わってしまいました。ありゃ、やはり間違えていたか。途中で分岐はなかった筈。最初が間違っていたのかなあ、これから引き返すとしたら大変だなあと思っていると、運良く庭先に人の姿が見えます。これ幸いと、香川に抜ける道はここで合っていますかと尋ねました。間違いないとのこと。少し手前で分岐していたそうですが、細くて畑の道と思い、しっかした道を進むと、この民家の玄関となった次第でした。下って戻ろうとしたところ、ここからも行けますからと軒先を通って案内してくれました。なんでも「ポツンと一軒家」に出たこともあるとか。瀬戸内海からは直線距離で6qほど、川之江・下川地区の最上手からでも僅か2qほどですが、この後県境付近から見たトップの写真でもわかるように、まさに山の中の一軒家です。私も、まさか人が住んでいるとは思ってもみませんでした。助かりました。この方(私と同世代?女性)がいなければ、また撤退となるところでした。今日は人がやってくるとかで、落石の除去はもちろん、道の掃除も普段からされているそうです。路面がきれいだったはずです。
 ところが、庭先で御礼を言って別れた後、イノシシ除けの柵のところはどうも違うようだと右手へ下ったら元の場所へ。引き返すと、別れたところから左手に見逃していた道がありました。少し進むと民家の全景が見えてきました。家屋数も多く、裏手にはビニールハウスが数棟、トップの写真でも分かるように田畑も結構広いです。これを維持管理するのは大変でしょう。
 その後すぐに道は未舗装になりました。ご婦人に道を尋ねた時に教えていただいた山肌から稜線にかけての大まかな道筋通りに道は進んでいきます。荒れていて所々でイノシシが掘り返しているだろうけど自転車なら担いででも通ることができると言われていましたが、これもその通り。進むと勾配は急になってきて、そこそこ大きな石が路面にゴロゴロ。枯葉・小枝も多く、おまけに雪解けでドロドロです。なんとか乗車して進んでいましたが、とうとう降りて押し。写真:下左は、まだ余裕で乗車できていたところ。押したところは余裕がなく写真もありません。道幅がかなり狭くなっているところもあり、四駆の軽自動車でも進むのは困難かもしれません。少し前に走った馬路から旧境目峠までの最後付近より酷いかなと思われました。幸い、そんな荒れた区間は意外と短く、未舗装のものの路面状況は十分乗車で走行可能な道になりました(写真:下右)。まもなく県境かなと思われる地点に到着。
 道脇の倒れた標木には、森林管理道石砂線・終点の記載があります。これから下っていく大野原・海老済石砂が起点のようです。しかし、「えびすくいいっさこ」とはなかなか読めません。名の由来を検索してみましたが、わかりませんでした。県道9号線の唐谷峠でも見つけた阿讃縦走路の立て札がここにもありました。標木の所から展望はなかったので、少し雲辺寺方面に歩いてみると西側に広がったのがトップの写真です。先程お世話になったお宅がまさにポツンと一軒家状態で写っています。四国中央市は切山付近の稜線に隠れてしまい、奥には赤石山系が聳えています。東を向くと、雲辺寺(写真:下右)。ここで、先程機能しなかった国土地理院地形図でのGPSをオンにすると、ピッタリ県境を指しました。
  
 県境からは下りかと思ったのですが、しばらく杉林の中を極緩やかな未舗装の登りが続きます。路肩には、また残雪。ただ、道幅は随分と広がって、クルマの轍もしっかりしています。香川県側からは県境までは、クルマがしばしば乗り入れられているようにみえました。そんな道を進んでいくと・・・。
 まもなく道はコンクリート舗装となって、開けた明るい光景になりました(写真:下左)。前方には県境付近からも見た雲辺寺。上方から何やら人声が聞こえたように思えましたが、姿は確認できませんでした。周囲は柑橘類が植えられており、少し上方には電波塔か何かがあるようで、愛媛県側とは随分と異なる様相です。切り開かれた明るい道を下っていくと、途中いくつか分岐がありました。どちらへ進むかは道の感じでわかるのですが、念のため地形図のGPSでも確認して進みました。ちゃんと機能していると、精度は高いです。下り切ったところには、開放中でしたが鉄柵が設けられていました。道脇には「私道のため関係者以外は通行できません 萩の尾開墾地・地権者一同」という看板がありましたが・・・(写真:下右下)。
 その後は、緩やかな下りのアスファルト舗装道で県道8号線に出て五郷ダムに立ち寄った後、県道9号線から広域基幹林道五郷財田線に右折。この道は、なかなか走る機会がなかったので、この機会にと初めて進んでみました。しばらく登り道が続きます。少し走ったところで、道脇に雲辺寺・登山口の標示を見つけました。余談ですが、私が初めて山らしい山に登ったのが雲辺寺です。中学1年生の時。大人に連れられて赤石山などにも登っているという同級生がいて、確か4人くらいで麓まで自転車で行き、登った道がここでしょうか。もちろん、当時の記憶は全くといっていいくらい残っていません。さらに進むと、雲辺寺ロープウェイの乗り場にやってきました。広い駐車場には、先日新聞の片隅でみた、とあるうどん屋さんが九州から運んできて宿にするというプルートレインの客車2両がありました。ちょうどそこから観音寺方面が眺められました。県道9号線から右折してすぐ瀬戸内海側の展望が広がっているところがあったのですが、その後ここまで木々のため瀬戸内海側の展望が広がるポイントは全くありませんでした。さらに進んで、粟井ダムから東側は一度走っているので、そのすぐ手前・小さなため池のあるところで左折。道脇には小さく遍路道と案内されていました。
五郷ダム堰堤 雲辺寺への登山口 観音寺方面、右が高屋神社 遍路道への分岐部
 地形図では実線(軽車道)で記されている道ですが、半分未舗装で農作業のクルマが偶に通るかなと思われるような道です(写真:下左・中)。心地良く下って、新池(写真:下右)沿いを回り、あと二つのため池の傍を縫うように走りながら、小高い丘の上にある萩の丘に帰着したのは、ちょうど正午でした。
 県道9号線は1.5車線のきれいな道ですが、香川愛媛両県近隣住民の行き来として利用されることはほとんどないようで交通量は極めて少なく、自転車乗りには有難い道です。上述のように愛媛側の展望は、条件が揃えばかなりのものだと予想されます。一方、市道金見谷線は一軒家関係の方以外はまず通らないと思われ、民家から先は近い将来走行不能になりそうな気配が漂っていました。県道9号線と異なり展望はほとんどありませんが、一度走ってみるには楽しい道でした。それにしても地形図で実線で示される軽車道、意外と整った道もあれば廃道もあり。情報の多い昨今ですが、まだまだ行ってみてのお楽しみが待っている道が多いかと思います。

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